2015年5月19日火曜日

山の手の家 断熱構造の解明

本日は、2階の天井の解体に入っています。そこで不思議なものを発見しました。上の写真のように、2階の天井には断熱材が無いにもかかわらずなぜか気密ビニルのみが全面に貼ってありました。気密ビニルの役割は室内の湿り空気を綿状断熱材を直接接触させないために使います。単独で使われることは基本的にほとんどありません。

こちらは外壁側の天井を解体した写真です。金属製の天井下地に二階の天井ボードが貼ってありました。構造が分りやすいように左半分は天井ボードの下地のビニルを残してあります。その上には解体中の3階の床が30cm間隔に並べられた根太材と共に見えています。先程、綿状の断熱材は室内の湿り空気に直接さらして使わないのがコツだと話しましたが、写真の通りビニルナシの状態で露出しています。肝心のビニルはこのグラスウールを覆うことはなく天井側に折り返されています。おそらく壁をビニルで先張りして納める事が出来なかったので天井側で防湿しようと考えたのだと思います。しかしこれはあまり意味がありません。外壁側の断熱材はこの部屋の湿気だけを吸うわけではありませんし、そもそも断熱層と防湿層は接して設けないと意味がないからです。綿状断熱材を使いこなすには1:防湿(水蒸気)、2:防水(液体の水)、3:防風(低温外気にさらさない)、4:透湿の4つを明快に設計できることが大切です。1は室内側から2~4は屋外側から行うことが基本です。
 

こちらは中間仕切りの足元。なんとなく気流止めらしきものが見えますが詰め込みが甘く、湿気の通った黒い跡が見えます。

これは躯体内気流といって間仕切り壁の内部が煙突のようになって、かなり激しく外気交じりの空気が上下した時に見られる症状です。最上階の間仕切り上部にも気流止めはありませんでしたから、恐らく小屋裏の冷気が間仕切り壁の中を降りて二階の床まで到達していたと考えられます。二階の床下には冷気が走っていましたからこれとつながって冷気循環のサイクルを形成していたと考えてよいと思います。
 
 
解体を通して明らかになった問題点をまとめたのが上図です。こうした状況に陥るのはなにも施工側の問題ばかりではありません。設計者が断熱自体を十分理解していない。断熱ラインと気密ラインをどうやって通したらよいか?維持したらよいか?図面上で十分解決できていない。それ以前に断熱は工事側の問題でデザインとは別だと思い込んでしまっている。自分でも経験がありますが木造以外の比較的大きな建物を扱う設計者ほど北海道に住んでいてもこうした分野には無知な人が少なくないのも問題です。
 
北海道において、コンクリート(RC)造、ブロック造、鉄骨造、木造の中で環境的に最も進化したものは、少数の外断熱化されたRC造、ブロック造を除けば、圧倒的に木造です。解体を通して、感じたことはこの建物の作り手は丁寧でよく仕事を知っているな、ということでした。2階床の根太フォーム断熱や工期圧縮に有効な天井の軽量金属下地等々、木造屋では中々出てこない引き出しの多さを感じます。一方で住まい手に優しい穏やかな室内気候を作ることは難しかったようです。本人の頑張りとは反対に、熱環境的に室内とも屋外ともいえない曖昧な空間が多く残り、結果的に断熱建物として完成させることは出来ませんでした。

 
最後は、仮にこの断熱構造のまま性能を引き出せたとしたらどこをどのように設計者は意識し、また施工者と意識共有すればよかったのか?をまとめて、解体に関する報告を終わりたいと思います。大切なことはほとんど文章で書きましたからこの図はイメージとして設計脳に焼き付けてほしいと思います。赤線が「気密ライン」、黄色が断熱材、水色が外気(通気層)です。室内から1:気密、2:断熱、3:通気層の順で計画します。特に1と2は必ず一筆書きで完結しセットで考えることが大切です。どんなに複雑な断面形状であってもこの1~3を完全に理解し自由自在に設計できると(既存)のような屋外でも屋内でもない「曖昧空間」がなくなり、熱的な事故が激減します。もちろんこの「曖昧空間」の排除は相対的に室内空間の拡大を意味しますからさまざまなスタイルの室内空間をより多く、安全に生み出すことも可能にします。
 
今日は西内まりや ちゃんなんていかが、こんだけきれいで歌も最高!凄いね!