2011年8月25日木曜日

お宝?

日曜日は現在着工間近の「発寒の家」(平成23年度R住宅の予定)のオーナー夫妻とニセコの家の見学に。ちょうどニセコの家のオーナーと都合が合い、三者で有意義な時間が過せました。久々に見る羊蹄山。やっぱりよいところですね~。(笑)

ニセコの家ではパッシブ換気やらトリプルガラスの木製サッシやら、はたまた全体計画や窓の位置の理由とか、実は部屋の配列自体に意味があるんです。とか、照明器具は極力見えないほうがよいのはなぜか?等々、たいへん有意義なお話ができました。印象的だったのはパッシブ換気があまりに単純な原理で拍子抜けした様子の「発寒の家」のオーナーの顔でした。日本人の平均的な感性で私の仕事を眺めると確かにその単純さに驚く人が多いのも事実です。(笑)みなさんきっと「あっ!!」と驚かせてほしいのだと思いますし、暖房費が簡単に半分になったり、夏場も実に涼しかったりといった事柄に、十分な理由が(素人では想像すらできないほどの)ほしいのだと思います。(笑)確かにその気持ちは分かりますが、種明かしは少々違います。

 簡単に言えば、「自然の法則を注意深く観察して科学的に設計を行う。」これ以外になにもありません。もう少し営業上手ならばよいのでしょうが(笑)残念ながらこれが全てなのです。したがって部分的にパーツを眺めると実に原始的で、人によってはせっかくのわくわく感を裏切ってしまうかも知れません。しかし誤解を恐れずに言えば、そうした当然の設計思想や哲学によって、自然の法則に沿って科学的に北海道の気候や生活習慣に合うように家を考え作ってきた歴史こそ希薄であったことも同様に大切にしてほしいのです。

 今までの北海道の家を簡単に表現すると、「エンジン建築」と呼ぶのがぴったりくるのではないでしょうか?寒さの克服のためにひたすらカイロの数と性能を競った日々、当初のカイロの動力は石油でしたがその後ガス、電気と変わりました。30年前の家と現在の平均的な全室暖房の家では、実は暖房費はほとんど変わらないかむしろ高いのです。もちろん30年前は居間にしかストーブはありませんでしたから、家全体を暖房して価格が同じならむしろ安いと考えてもよいのかもしれません。しかし現実はそんな慰めがむなしくなるほどCO2の排出量は増加の一途をたどり、3.11に東北を襲った大震災は、今まで当然としてきた価値観を簡単に吹き飛ばすと共に、私たちの社会にさまざまな問題を突きつけています。

 「スピード感を持って安価に簡単に問題を解決する知恵」震災以降国民が政治に期待したのはこうした事柄ですが、現実はご覧の通りです。私は北海道の建築もこうした閉塞感を抱えているように思うのです。むしろ私はこうした閉塞感を打ち破るのは、新たな設計思想によるありふれた既存技術の再評価や誰でも知っている自然法則の積極的な活用だと思っています。自動車メーカーのマツダがガソリンエンジンで30km/Lの省燃費を達成しましたが、意外やほとんどニュースになりません。価格も140万円と同性能のハイブリッド車よりも100万円も安いのです。この車ならばすぐに普及が見込めますし、導入の際の国庫補助金もより安価で済みます。車検や保険も既存のものと変わりませんし、最近調達が難しさを増しているレアメタルも使いません。よいことずくめなのに日本人の価値観で見ると地味な感じがするせいか、思うほどは「おっ!」という人が少ないようです。(笑)
電気自動車(EV)やハイブリッドカーが日本的なハイテク感を満足する商品であることを否定はしませんが、必要以上にハイテクでマニアックであれば、インフラが未発達の国では敬遠されるでしょうし、価格の高さや必要以上の便利さは、本質的な価値をかえって見えなくしてしまいます。日本の携帯電話は世界一なのに、発展途上国のシェアは中国や韓国に遅れをとるのはなぜか?世界一の技術が必ずしも世界一の競争力を持ちえなくなった理由を考えること。日本の製品が喜ばれた時代、それを作り出したのは同じく日本人の価値観であったことを思い出す必要がありそうです。


発寒の家のオーナーをお送りした後はニセコの家のオーナーと駅前の倉庫を見学しました。日本でも、地域再生の鍵はもはや中央からの太いパイプ(爆笑)ではなく、自らの歴史の再発見やご当地の食、地域に暮らす人々のかざらない人柄にあることが認識されつつあります。そんな意味でも、ニセコ駅前の倉庫群はまさに町の宝ではないでしょうか?その中でもお宝の中のお宝は室内から見上げた小屋組みの木製トラスです。(三角形に組んだ部材で構成する構造体の事)材料に掛かる力を圧縮と引っ張りに単純化し(日本の和小屋は曲げ力という厄介で難しい力が掛かる)結果、非常に細い部材で安価に経済的に大空間に屋根をかけることが可能になります。ご覧のように左右の壁の上にトラスの両端が乗るので部屋の真ん中に柱は必要ありません。ちょうど体育館のようながらんどうの内部を簡単に作ることができるのです。正しく施工すれば頑丈で、豪雪地帯のニセコでも何十年間も雪の重みに耐えてきました。住宅だってこんな風に作って、高齢化や子供たちが独立又は帰ってきたときに自由に間取りを変えられたらよいと思いませんか?こうした技術はずっと以前から身の回りにあるのに、なぜか市民の多くは知りません。不思議だと思いませんか?

現在も鉄骨でトラス構造の小屋組みを作ることは珍しくありません。しかし木造のトラス構造が圧倒的に優れているのが上の写真です。なぜかって??それは分解することができるからです。溶接で繋いでしまう今の鉄骨トラスト違ってこの当時はトラスは貴重品でありまして、払い下げになった農協の倉庫のトラスが小学校の体育館の屋根に再利用されたりなんてことも普通にあったんです。まさに屋根に合わせて基礎と柱だけ作る。すっごくECOでしよう?(笑)でもなぜこうした思想や技術が発展しなかったんでしょう?

簡単な構造計算でこんな大空間を作っていました。

圧巻なのは以前にも一度登場した、増毛小学校でしょう。うーんこれならB29でも入りますね~。これを80年前に作ったとは...でもなぜ発展しなかったんでしょう?
人の大きさと比較するとどれだけ凄いか分かりますよね~。(笑)これを組み上げた大工の名前や当時の記録が少ないのはいったいなぜなんでしょう?80年後に見たって凄いのに。ここらへんの感性を磨く必要があるように思いませんか?

お話は変わりますが、ニセコの倉庫群を見学していてR住宅の生みの親、都市計画コンサルタントのH氏にばったりお会いいたしました。コンサルタントの仕事を簡単に説明すると「仕組み作り」、私たち建築家は「ものづくり」となるでしょうか?日本の住宅が世界一短いサイクルで使い捨てられていること、物を直す力が衰え、薄っぺらなものを簡単に作る分野がいびつに発達していること、銀行や不動産業から見ると減価償却を終えた建物(要は古いほどに価値がない??/なんと野蛮な!)
したがって建物の安心できる中古市場がない。(車は立派な中古市場が存在し、査定や評価基準も充実し市民に普通に受け入れられています。)そんな誠に??な先進国に一筋の光明、それがR住宅システムという、住宅再生の仕組。ご興味のある方はH氏のHPを覗いてみては?

㈱CIS計画研究所 http://www.cis-ins.co.jp/index.html

本日は、大好きなバンプどうぞご一緒に!