写真は「氷堤」(ヒョウテイ)と呼ばれ、冬の北海道の屋根にはアルアルな現象です。
その原理は1:室内の暖房熱が小屋裏に逃げることで屋根を温め→2:屋根に積もった雪が融けて軒先に向けて流れ出す→3:しかし軒先の下には熱源となる部屋がないために落ちずにそこで凍り付く→4:そのサイクルが繰り返され軒先の上で重たい氷の塊が成長する→5:氷の重さに耐えかねて軒先が折れる・・・というものです。
こちらがその折れた軒先。見事なほどポッキリ行きました。たかだか60cmも出ていない軒でも、氷堤を生じてしまえば、軒先なんて実に脆いものです。
日本建築の伝統は深い軒で雨から建物の足元を守ることですが、北国では中々そうも行きません。こんな風に既存の技術が果たしてどこまで通用するものなのか?
理想の雪国の屋根を求めて・・長い長い試行錯誤の旅が始まりました。
こちらは軒裏から撮った写真ですが・・破風も軒天場も見事に壊れてしまいました。
一時期、厄介者の雪は屋根から早く落としてしまえ、屋根に載せたままだと地震が怖いから!という・・一見・・さも正しく聞こえそうなコンセプトを取り入れて雪の落ちる屋根を街中でも作った時代がありましたが・・結果はこの通り。軒下にある1階の窓は落雪の衝撃で吹き飛ばぬように、分厚い足場板で塞ぎ、最大積雪時はほとんど採光も難しくなりました。
写真を撮ったのは3月ですが、無落雪の家(雪は屋根の上に載せたままの家)の軒下にはほとんど雪が無くて歩道も使えるのに、落雪型の家の方は多くの残雪が残り歩行者は車道を歩くしかありません。
最近では見た目は勾配型の屋根でも、雪は落とさず載せたまま。太陽熱で効率よく融雪させて安全な水に戻してから軒先の樋で排水します。
家中で最も日当たりの良い屋根は、さながら融雪用のフライパンに早変わりし、凄まじい効率で安全に融雪を行ってくれます。
パッシブな設計!等というと・・とかく窓からの日射熱で暖房費を抑える話しになりがちですが、雪という気難しい隣人とどう付き合うべきか?たいへん長きに渡った問いの答えは実に意外なものだったのです。
屋根から雪を落とすという発想は一見、理にかなっているように感じますが、雪を融かす上で、最も都合の良い場所から、わざわざそうではない場所へ危険まで冒して雪を動かすという・・誠に?な設計思想だったというオチに今は気付いたのでした。
今でこそ考えて見れば分かりますが・・小さな住宅でさえこんなに積もる屋根の雪を落とそう、落ちた雪はどうしよう?なんて真剣に一時期は考えていたなんて・・笑っちゃいますね・・でもそれが人間なのだと思います。中々最初からスマートには行きませんよね(笑)
こうした難題が解決できたのは卓越した技術を持つ地域の板金屋さん、氷堤の原理を解明した研究者さん、解決策を普及させるために尽力した地元各自治体さん、北海道建築指導センターさん、そして学びを深めた作り手のみなさん・・多くの人の力が従来の屋根の常識を覆したのだと思います。
今日はU2なんていかがでしょう。