2:性能検証
さて今日は3軒の住宅を例に、一ヶ月分の実測データーをながめながら建物の性能が室温や外気温とどのように関係しているのか見てみたいと思います。「あれ、南あいの里と、菊水の二軒では?」とお思いの方はブログをしっかりお読みいただいて誠にありがとうございます。もう一軒は、現在、北海道の省エネ基準として最もポピュラーな、I地域(北海道地域)用次世代省エネ基準代表として「西岡の家」に登場してもらいます。目的はずばり、南あいの里の家、菊水の家を語る上で目安としてちょうどよいと思ったからです。下記に各家のデーターを乗せます。Q値とは建物の外気に接する部分(壁や屋根等)から平均どのくらい熱が逃げているのかを表しています。たとえば南あいの里の家と西岡の家を比べると、南:1.0W/㎡k、西:1.6W/㎡kとなり1平方メートル当たり0.6W南あいの里の家の断熱性能がよいことが分かります。確かにその差は0.6Wに過ぎませんが、室内と室外の温度差が1℃の時であることを忘れないでください。たとえば室内を20℃で暖房し屋外が-10℃に冷え込むような日は、内外の温度差が30℃にも達します。その場合のそれぞれの家の値は
下記のようになります。
【内外温度差30℃の1㎡当たり】
南:1.0×30=30W/㎡
西:1.6×30=48W/㎡
つまり南あいの里の家は、通常の高断熱仕様の家よりも約4割も熱が逃げにくいということが分かります。仮に一般的な40坪くらいの家をそれぞれの基準でつくった場合、家全体から逃げ出す熱を概算してみますと。(40坪程度、床面積:≒130㎡程度。)
【家全体】
南:30W×130=3900W/h
(-10℃に冷え込んだ夜は40W電球約98個分の熱が逃げる)
西:48W×130=6240W/h
( ” 約156個分の熱が逃げる)
というように、たいへん大きな差になります。
ここで菊水の家も概算してみたいと思います。
菊:0.7×30×130=2730W(同条件なら40W電球69個分の熱が逃げる)
(*:菊水の家は換気装置に熱交換換気を用いているために計算上は有利になります。壁や屋根の断熱仕様は南あいの里とほとんど変わりません。)
また必要熱量とはこの各家のQ値(熱の逃げにくさ/断熱性能)から逆算した必要と思われる暖房設備の大きさです。南あいの里:3.3kw、菊水:2.1kw、西岡:5.3kwとなります。
(但し:外気温-13℃の時室温を22℃とした場合)
「やっぱり西岡はよくないね~」そんなふうに感じられるでしょうか?しかし1kwはヘアードライヤー一本分の熱量、約3kwだと家庭用のカセットガスコンロと聞くといかがでしょうか?南あいの里は暖房対象面積(暖房空間の広さ)39坪(約78畳)をこのカセットコンロ1台で最も厳しい寒さの日を乗り切ることが可能です。よくないという印象の西岡の家ですらカセットコンロ二台も必要ないのです。前回のブログで次世代省エネ基準の性能では北海道のCO2は減らないと書きましたが、こうして比較してみるとどれくらい大変かが一目瞭然だと思います。オール電化をしている方は家中の暖房設備の容量が何キロワットかをぜひ計算してみてください。
現在、策定が進行中の札幌版省エネ基準の案をお見せいたします。緑が新築用、ベージュがリフォーム用となっています。現実的にCO2削減を目指すとなると非常に水準の高い断熱を行う必要があることがお分かりいただけると思います。
仮に南あいの里の家と菊水の家をこの札幌基準で評価すると、新築用基準のスタンダードとハイということになります。今後本格的に北海道でCO2削減に市民総出で取り組むためには最低でもこのくらいの性能を必要とするということをぜひご理解いただきたいと思います。またこのような使ってもよいエネルギーの制限は、日本全体が目指そうとしているストック型社会においては、むしろリフォームされる住宅(古くても直す場合は対象になります。)にとって適用が必要であることも大切なポイントとなります。(これから新築される家をすべて南あいの里や菊水の家のようにしても、既に新築戸数が毎年下降傾向の現状では、既存住宅の性能向上がセットでないとCO2削減は難しい状態です。)
一ヶ月間の室温の変化と外気温の実測データー、厳寒期にあたる二月に計測。さすがに南あいの里地区は寒く、最低気温は-12℃を下回る日もあった。(黒線)、反面床下以外の各室の温度は18℃~24℃の間で細かく振動している。暖房の使用状況はパッシブ換気用の1kwの電気ヒーターは入れっぱなし、主暖房のペレットストーブは、燃料供給を最低まで絞り、朝6:00から朝10:00くらいまでほぼ4時間運転の後OFF、(この条件で2月のペレット消費量は約3kg/日、10kg入りの袋が3.5日でなくなる計算)で寒くもなく生活ができたとの事でした。また夜間も1kwの電気ヒーターのみで室温は18℃(オーナー所有の温度計では17℃)までしか下がらないことも確認されました。
南あいの里の家の室温を最も寒さが厳しかった日を含めて4日間分切り取ったのが上のグラフです。壁と屋根をそれぞれ30、40cmも断熱した結果、室温はほとんど外気温に影響されなくなり、ほとんど暖房に頼ることもなく、22℃近辺の室温を維持することが可能となる。二階の居間とその上のロフトの気温がツン、ツンと角のように尖る時間帯は、12:00くらい。窓からの日射の影響と考えられる。冬場の気温が北欧と同じであっても、低い緯度により冬場の日射量が遥かに多い北海道においては、壁、屋根の断熱に加えて日射熱を手軽に室内に取り込むための、これまた断熱性能に優れた大きなガラス開口部がたいへん有効であります。要は飛び切り寒い日であっても快晴ならば室温を上げることは難しくありません。
一方こちらは菊水の二月、約20日分のデーターです。まず街中である菊水は外気温が南あいの里とはまったく違うことが分かります。最も寒い日であっても-10℃を下回ることはありません。こちらも、室温が細かく上下動を繰り返していますが、よく見ると南あいの里よりもその振れ幅が小さいことがわかります。この理由としては、もちろん熱交換換気の採用や窓がより断熱性能の高い木製枠の三重ガラスであることも関係しますが、最も大きな違いは、敷地の向きと日当たりといえます。南あいの里が日当たりのよい南側角地でなおかつ大きな水平のガラス面を持っているのに対して、菊水の場合は、日当たりの少ない北側敷地で、南側の窓の前には3階建ての隣家が迫り居間の日当たりは南あいの里よりもずっと穏やかです。
太陽の熱量は少なくとも、南あいの里の家よりも総合的には高められた断熱性能により、安定した室温を生み出しているのです。菊水の家の暖房は空気熱源のヒートポンプによる温水輻射暖房ですが、そのままだと暑くなってしまうので、13:00~18:00まで機械をOFFにして生活していたそうです。その結果いくら北側とはいえ、昼間太陽が出れば室温が上がり、暖房時間は一日19時間程度とのことでした。
南あいの里の家に比べて穏やかな12:00頃の室温ピーク。メインの居住スペースである二階と三階(菊水の家は一階はすべて収納スペース。あとは玄関。)は18℃~22℃の間でさらに穏やかに気温変動する波形となっている。(実測:(有)タギ建築環境コンサルタント)
このグラフは、ブログでもすっかりおなじみのDr.タギ氏による非定常計算による断熱厚さ別の住宅の自然温度の動きを感覚的に説明するために作成したものです。たとえば15cm断熱の建物は人が居住している状態で暖房を失うと、外気温が-10℃の時には室温は0℃にまで下がってしまう。翌日朝が来て外気温が上がったとしても11℃までしか室温は回復しない。同じ条件で20cm断熱の場合は最低気温が+4℃に上がるものの室温の最高値は約15℃までとなる。しかし30cm断熱すると大きくこの状態が変わる。室温は人が生活してさえいればたとえ暖房を失った状態でも14℃~22℃の間に収まることが分かる。この温度帯ならばエネルギーを失った非常時であっても寒さにより室内で命の危険が増すことは少ない。現在も危機的状況が続く東日本大震災の報道を見ても冬場の被災がどれほど過酷か皆さんもお分かりだと思う。今回のように発電所が大きく被害を受けると、被災地以外の地域も計画停電等によるエネルギー不足に陥る。もし今の時期の北海道がその対象だったとしたら、家ではたして過ごせるだろうか?チーム銭函に始まりチーム南あいの里、菊水の全員が皆さんにご理解いただきたいのはこうした点に他なりません。私たちはエネルギーが必要です。でもけして頼りすぎてはいけないのではないでしょうか。確かに暖房は快適です。しかし暖房なしで死を覚悟せねばならないような設計思想はやはり誤りなのだと思います。