2015年10月10日土曜日

もう一つの設計

出展:住宅省エネルギー技術施工技術者講習テキスト
 
■変わり行く設計屋の仕事?
みなさんが一般的に設計事務所に抱く印象とはどんなものでしょう?普段はなかなか体験できない空間性、お洒落なインテリアやデザイナーのこだわりを感じさせる外観、まるでお店のような照明計画や厳選された家具類・・・恐らく多くの人が設計費の対価として思い浮かべるのはこうした印象が強いのではないでしょうか。もちろん見える部分をより良くすることは大切なことですし、依然、私の仕事の主要な分野でもあります。近年ではこれら伝統的な設計屋の仕事領域に加えて建物の環境性にも随分力を入れてきました。エネルギー資源に乏しい日本という国の中で最も北の地域に暮らすということは住まいの環境性能なしには生活をイメージすることが困難だからです。今日のお話しはこれらとは別に最近私が取り組んでいることについてです。
 
政府は2%のインフレ目標を掲げ経済再生に取り組み、景気は回復に向かいつつあるそうですが、巷の景況感は今一ぱっとしないのが実感です。なぜそんなことを感じるかというと、住宅取得にかかわる様々なインセンティブ(補助)が政府から矢継ぎ早に繰り出されているからです。一部の大企業で、過去最高の収益が報告され社員の給与を上げる動きが見えるのも事実ですが、こうした補助の拡充は住宅着工戸数の減少に対する危機感の現れであり、裏を返せばまだまだこうしたてこ入れが必要なのが景気の実態であるように思います。要は実質的にはマイホーム取得中心世帯と言われる年齢層の年収は依然厳しさを増しており、引き続き助けを必用としていることを政府自身が認めているからこそこうした補助が増えるているのでしょう。経営コンサルタントでもない建築士の私がこんなことを話すのは意外だと感じていただければ今までの掴みは大成功です。(笑)
 
■ちょっと視点を変えて...
よく欲しいものは、貯金して買うという人がいます。それは多くの場合正しい考えですし、よいことだと思います。では住宅を買うのに全額貯金することは理想的だといえるでしょうか?一例ですが、30代の夫婦が住まいの新築を思い立ち、貯金をはじめます。北海道の都市部の郊外なら土地と建物で2500万円くらいでしょうか、暮らしを切り詰め毎月5万円貯金を続けます。{60万円/年}でも単純計算で40年以上かかります。(実際には貯金には金利が付くので、もっと早く貯まりますが話を分りやすくするために今回は考えないことにします。)
 
始めた頃は30代の若夫婦が貯まる頃には70代、二人とも既に定年を迎えていることでしょう。ところで今からマイホームを新築するどんな意味があるのでしょう?(笑) 恐らく70代の老夫婦にとって喫緊の課題は既にマイホームの新築ではなくもっと別のことに移っていると思います。私が言いたいのは、そもそも家づくりとは別の視点で見れば、住宅金融(この場合は住宅ローン)なしには成り立たないということです。冒頭で目に見えるところをより良くデザインすることに触れましたが、同様に資金(コスト)のデザインも近年特に求められるようになっています。 
 
■最近の傾向
現在、日本政府は建築物の環境性能向上に力を入れていて2020年を目処に建築の燃費性能を義務化しようとしています。車よろしくスタイルや走りがよくても燃料を食いすぎる車はもう生産できませんよ。という訳です。2020年といえばちょうど5年後ですから現在はそれにむけた準備期間と捉えてよいと思います。
 
■どんな住宅がお得なのか?
さて今までのお話しを聞いた上でぜひ上の写真を見ていただきたいと思います。簡単に言うと左の列が住宅のメニュー、右側はそれに対するインセンティブ(補助等が受けられる建て主側のメリット)です。ちなみに左列の一番上に「省エネルギー法」とありますが、これが2020年より義務化されるものです。さてインセンティブの方を見てみましょう。残念ながら矢印は「住宅金融支援機構」のところに1本しかつながっていませんよね。みなさんご存知のように住宅ローンとして長い実績をもつフラット35を提供しているのがこの「住宅金融支援機構」ですからこの矢印はローンの金利をお安くしますよ!という意味のインセンティブです。今度はまん中と下にある「補助金」、「減税」のところも見てみましょう。そして今度は逆に矢印を辿ってみてください。金利も補助金も建てた後の減税も受けられる住宅メニューは「長期優良住宅」と品確法による「断熱性能等級4」であることがお分かりいただけると思います。その中でも金利を10年間引き下げるものとなると「長期優良住宅」しかないのがお分かりいただけるでしょうか。
 
私が言いたいことは5年後の2020年に義務化される基準に適合する住宅は意外やメリットが薄いのに「長期優良住宅」のメリットが高いことをまずよく理解してから資金計画をしましょう!ということなのです。でも5年後に義務化される基準を先取ることにメリットが薄いなんて不思議ですよね?それはなぜなのかというと、義務化の意味を理解すると明らかになります。要は義務化とは最低限度の明示、これ以上悪いものは社会性が低いので作らないようにしましょう。というボーダーラインを明らかにするのが義務化の目的なのです。ですから最低限の水準をクリアしただけではインセンティブを用意するまでのこともないと判断されてしまいます。これに対して長期優良住宅はこれらの基準の他に構造強度の割り増し設計や耐久性のUP、維持保全計画の策定等を含むことからインセンティブの対象となり易いのです。
 
結果的に「長期優良住宅」を前提に資金計画を立てると2015年10月現時の状況では一般的な家に比べ2~300万円多く資金を作ることが可能です。単純に言えば1700万円の予算の人が同じ返済額で2000万円の工事契約が結べるようになるわけですから、インセンティブのために設計の手間は増えても住宅取得者にとって現在はけしてわるくない時期と言ってよいと思います。また設計もその内容がインセンティブ(建て主のメリット)として評価される時代になったことはむしろよい事だと思っています。なんだか「図面が上手いだけじゃなく、資金調達力も鍛えないといけないよ!」なんて言われている気がするのは私だけでしょうか・・・(笑) さーて今日も頑張りましょう!
 
 
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