昨日の投稿がウケたので本日は屋根編の第二段「簡易ダクト編」と行きましょう!ちなみに上の写真で凍った縦樋の上に見える三角形が後付された「簡易ダクト」の本体です。
昨日の投稿でもお話したように、勾配屋根はその形状で雨や雪を自然に受け流すところが、温暖地、寒冷地の区別なくたいへん合理的であると書きました。建物にとってみれば屋根のかたち次第で構造を痛める恐れのある雨水や耐震上不利な重たい雪を排除できるのなら、それこそまさに自己保存の原則に適うものでしょう。それではなぜ温暖地ではこの合理的な屋根が多いのに対して北海道には少ないのでしょう。そこを考えるために今日は落雪の応急処置として一時期流行った「簡易ダクト」を取り上げてみたいと思います。
この「簡易ダクト」、簡単に説明すると落雪に悩む家の対症療法として考え出された後付の内樋です。後付なので融雪水を流す縦樋は既存の軒天井を破って露出します。要は固体の水である雪は屋根上に留め置いたまま融けた分だけ流すと言う工夫で落雪の問題を解決しようとしているのです。勾配屋根と陸屋根のいいとこ取りのような考えですね。もちろん肝心の融雪水が通る縦樋は凍結に強い材質の管ですが、断熱性に乏しくおまけに屋外の低温に曝されるのですから中の水は管の途中で再び凍ってしまうかもしれません。そこで内部には強力な熱線ヒーターを仕込んであるのです。外気が零下を下回ると自動的に(又は手動で)ヒーターがONになり管内を温め凍結を防ぎます。もちろん生焚電気ヒーターですから電気代もかなりかかります。
この写真は見ての通り、簡易ダクトが深刻な状態であることを示しています。屋根の上で縦樋の入り口が詰まり水が溢れて軒先の中に浸水しあろうことか縦樋の外側を伝って下に流れ落ちています。当然管内のヒーターは何の役にも立たず管の表面を流れる水はどんどん凍って氷柱が成長するモードに陥っています。一度悪循環に陥るとたいへんでそれが今や1階の下屋にまで及んでいます。
こちらが下屋の簡易ダクト。二階から落ちる融雪水が軒先で重たく凍りつきどんどん成長しています。このままだと軒先が壊れてしまいそうです。
合理的なかたちに安易に手を加えたばかりに自己保存のかたちから一気に自己破壊モードに陥ってしまった例。ですから無落雪屋根は最初から陸屋根で設計しましょうね!ちゃんちゃん!と落ちを付けたいところですが実はそうではありません。
実は北海道で一般的なスノーレーンを備えた陸屋根も原理的にはこの簡易ダクトと大差ないのです。年に二回程度のドレン(排水口)の点検と清掃、凍結抑止ヒーターのチェツクがあるからこそ使えるのです。みなさんちやんと点検しましょうね。ちゃんちゃん・・と・・これも違います。(笑)
半年間、屋根に雪を積みっ放しにする北海道の陸屋根はそれ自体の合理性はけして高くありません。いやいや温暖地の合理性と北海道の合理性は違うのだ!なんて感じるのは自由ですが勘違いしてはいけません。屋根形自体に雨や雪をいなす力はないし、耐震上も構造補強上もどちらかと言えば不利です。ではそんな大切なものを犠牲にしてまでなぜ雪は落とさない方がよいのか?・・・・・それは暮らす(生活する)上でどうしても必要だからだと思います。生活する上でまず落雪の不安を取り除かない限り、建物を計画しても敷地のどこに置いてよいのか決められません。同様に敷地内に通路や物置、駐車場を計画したくても、選択肢は極端に狭いものになってしまいます。敷地の周りに接する公道との安全性にも不安が残ります・・・・・・・要は建築が合理的なだけではとても暮らせないのです。
実はこんな風に考えると温暖地の屋根もかなり似ている点がありますよね~(笑)。温暖地の勾配屋根は軒先に雨樋を付けます。雨樋の目的は軒先の全長に渡って雨が地面に落ちるのを防ぎ、縦樋でまとめて流すことです。これにより建物の土台を湿気から守り、妻面からも平面からも出入りが可能になり、アプローチや造園、物置や駐車場の計画が格段に自由になります。要は屋根型の合理性のみでは不十分で、雨樋とセットになってこそ、そこにさまざまな自由が生まれ、その結果、暮らす上で必要な事柄が満たされるのだと思います。もちろんこの場合、扱う水が液体のままであることが寒冷地との大きな違い。ここが大切です。
そんな風に考えると次の写真がまた違って見えてきませんか?(笑)
北海道の陸屋根は雨や雪を受け流す合理性を捨てて屋根を樋にする道を選んだ。
元々、水だけを相手にしていた軒先の小さな樋が巨大化し屋根化したのが北海道の陸屋根なのかもしれませんね。合理的であることは一見、明快に説明できることが魅力かもしれませんが、その一方で生活の実感を伴う事実を簡単に覆い隠してしまうのではないでしょうか。
左手奥の簡易ダクトの家はご愛嬌ですね(笑)
今日はヴァレンティーナのピアノで行きましょう!