以前の投稿で、「北海道に多い陸屋根は屋根として考えるなら、お世辞にも合理的とは言い難い。」と書きました。勾配付の屋根はそのかたち自体に雨や雪を受け流す力があるのに対して、四角な陸屋根はそれを持たないからです。それどころかむしろ屋根にとって不要な雨や雪を溜め込み易いかたちをしています。それでは「なぜそんな非合理な屋根が北海道に広がったのか?」と言えば、「暮らす上でどうしても必用だったのではないか・・・」 そこまでが前回までのお話でした。今日は実際の街並みを見ながらこの屋根にとっての合理性と暮らしの関わりを考えてみたいと思います。
上の写真は陸屋根と三角屋根のアパートを並べたものです。もちろん左側が最近でもう一方が40年以上前のものです。前者の屋根には大量の雪が載り、後者の雪はきれいに落ちていることが分ります。それでは落ちた雪を見てみましょう。
この三角屋根のアパートは角地に建っていますが屋根の雪が落ちると道幅を半分にしてしまいます。まだ1月が始まったばかりで本格的な降雪はこれからだと言うのにもう既に1階の窓はほとんど埋まってしまいそうです。
交差点を渡る歩行者の視点で見ると落雪する屋根の恐ろしさがよく分ると思います。
落雪する雪は大きな力を持っていますからほんの少しかすっただけでも壁から突き出ているものは大きなダメージを受けます。もちろん外壁も傷みますから注意が必要です。
こちらのアパートは窓の前を除雪しています。もちろんガラスの破損を防ぐためと採光や換気を確保するためです。落雪は別の視点で見れば非常に大きな力を片方向に集中させることですから、作り手はその反作用に対する備えを絶えず考えておかねばなりません。厄介なのはその非常に大きな力は年毎の雪の量や重さによって刻々と変わるために充分な備えと言っても具体的に特定が難しいことです。結局、作り手にはある程度余裕をもった?(笑) 落雪対策を対症療法的に講じて置くことが精一杯となります。
窓の両脇には落雪から窓を守るために板を渡す金具が付いている。落雪は単に溜まり積み上がるばかりでなく軒先から落ちた融雪水でかちかちに凍り、もの凄い重量になるためにこの板がないと簡単に窓を破ってしまう。意外にもこうした開口部の一時補強は北海道以外の雪国から伝わったものであり、道外の金物店では今でも販売されている。
丸松工具(新潟)HP http://marumatsu-sash.xyz/?page_id=1178
落雪の量に応じて一段、二段と取り付けた。
もの凄い雪の力に耐えるために多くは6mm以上のFB(鉄板)が使われ、陸屋根が一般化するまでは冬に向けた地元鉄工所の主要な仕事のひとつだった。
たとえ軒を出しても雪は巻き垂れし、外壁のすぐそばを垂直に落下するから壁の排気口は必ず破損した。
落雪型の屋根だと落雪方向以外の壁面しか、基本的に使えない。窓や出入りの自由を失うということは暮らしのために必用となる地上の余白を著しく制限されてしまう。
狭い敷地条件で落雪を少しづつ四方に分散させざるを得ない屋根の場合は特にたいへんで1階の窓は方位を問わずこうした雪止めが取り付くこととなる。日射を奪われた室内は暗いばかりか極端に寒く、北国の住いとしての基本さえ満たさなくなります。
たとえ半年間、屋根にとって厄介な重たい雪を載せたままにしたとしても、暮らす上で欠かせない地上の余白が確保されなければ、そこに生まれる北海道の暮らしを続けることは難しかった。そのためには屋根を第二の地面と考え、降った雪は落とさない。このあまりにも単純な発想の転換に到るまで実に長い年月を要したと思う。温暖地の屋根も注意深く見ると雨を受け流す屋根面とそれを集める軒先の樋でできている。雨は流してもそれを広範囲にばら撒いてしまっては暮らす上での用を成さない点はむしろ北海道となんら変わらないのではないのだろうか。
今日はMaroon 5なんていかが