2015年5月19日火曜日

遠藤又兵衛 邸を見学

昨日は日曜日の代休にて事務所を抜け出し小樽の遠藤又兵衛邸を見学に行きました。予想はしていましたけど、まあほんとうにお宝状態。小樽の旧家のお屋敷建築はどんどん解体されてなくなっていますから今のうちが見頃。とっても残念ですけど、たくさん写真を撮って来ました。

この廊下の美しい事。天井高は豪邸らしく9尺(約2.7m)もあります。

当時のお金持ちに流行した洋室。家全体は和風ながら応接室は洋室というパターンが多い。天井高は3m以上あって実に堂々としたもの。シャンデリアの他に暖炉も備えている。

こちらが暖炉。当時は火鉢なんかで暖を採っていたと思うけどこの暖炉を最初に目にした人はどんな思いだったのだろう?

凝った装飾が施された本格的なつくりの暖炉はとても珍しいものだったろう。

天井の装飾ひとつ見ても、この家の主の地位と財力が抜きん出たものであったことが偲ばれる。

このドアは圧巻!扉厚は7cm位もあって補修も完璧。

日本庭園に面した廊下

書院付き1.5間の床の間

床柱は杉の磨き丸太(太いそしてまっすぐで長い!)床框は漆塗り

もう凄い!和室は10畳が2室続きで襖を取り外すと20畳の広間となる。

書院の障子は富士山がモチーフ

暗く幽玄な和室から見える明るい庭の景色。和室の室内はけして明るくしすぎてはいけないという見本のような室内でした。

屋根の瓦も完璧に当時のままに再生。こんなお屋敷がごろごろあった全盛期の小樽っていったいどんな街だったんでしょう?まじにタイムスリップして当時を見てみたいと思いませんか?(笑)
 
今日はブレードランナーのサントラの中から一曲。I love Vangelis!
 
 

山の手の家 断熱構造の解明

本日は、2階の天井の解体に入っています。そこで不思議なものを発見しました。上の写真のように、2階の天井には断熱材が無いにもかかわらずなぜか気密ビニルのみが全面に貼ってありました。気密ビニルの役割は室内の湿り空気を綿状断熱材を直接接触させないために使います。単独で使われることは基本的にほとんどありません。

こちらは外壁側の天井を解体した写真です。金属製の天井下地に二階の天井ボードが貼ってありました。構造が分りやすいように左半分は天井ボードの下地のビニルを残してあります。その上には解体中の3階の床が30cm間隔に並べられた根太材と共に見えています。先程、綿状の断熱材は室内の湿り空気に直接さらして使わないのがコツだと話しましたが、写真の通りビニルナシの状態で露出しています。肝心のビニルはこのグラスウールを覆うことはなく天井側に折り返されています。おそらく壁をビニルで先張りして納める事が出来なかったので天井側で防湿しようと考えたのだと思います。しかしこれはあまり意味がありません。外壁側の断熱材はこの部屋の湿気だけを吸うわけではありませんし、そもそも断熱層と防湿層は接して設けないと意味がないからです。綿状断熱材を使いこなすには1:防湿(水蒸気)、2:防水(液体の水)、3:防風(低温外気にさらさない)、4:透湿の4つを明快に設計できることが大切です。1は室内側から2~4は屋外側から行うことが基本です。
 

こちらは中間仕切りの足元。なんとなく気流止めらしきものが見えますが詰め込みが甘く、湿気の通った黒い跡が見えます。

これは躯体内気流といって間仕切り壁の内部が煙突のようになって、かなり激しく外気交じりの空気が上下した時に見られる症状です。最上階の間仕切り上部にも気流止めはありませんでしたから、恐らく小屋裏の冷気が間仕切り壁の中を降りて二階の床まで到達していたと考えられます。二階の床下には冷気が走っていましたからこれとつながって冷気循環のサイクルを形成していたと考えてよいと思います。
 
 
解体を通して明らかになった問題点をまとめたのが上図です。こうした状況に陥るのはなにも施工側の問題ばかりではありません。設計者が断熱自体を十分理解していない。断熱ラインと気密ラインをどうやって通したらよいか?維持したらよいか?図面上で十分解決できていない。それ以前に断熱は工事側の問題でデザインとは別だと思い込んでしまっている。自分でも経験がありますが木造以外の比較的大きな建物を扱う設計者ほど北海道に住んでいてもこうした分野には無知な人が少なくないのも問題です。
 
北海道において、コンクリート(RC)造、ブロック造、鉄骨造、木造の中で環境的に最も進化したものは、少数の外断熱化されたRC造、ブロック造を除けば、圧倒的に木造です。解体を通して、感じたことはこの建物の作り手は丁寧でよく仕事を知っているな、ということでした。2階床の根太フォーム断熱や工期圧縮に有効な天井の軽量金属下地等々、木造屋では中々出てこない引き出しの多さを感じます。一方で住まい手に優しい穏やかな室内気候を作ることは難しかったようです。本人の頑張りとは反対に、熱環境的に室内とも屋外ともいえない曖昧な空間が多く残り、結果的に断熱建物として完成させることは出来ませんでした。

 
最後は、仮にこの断熱構造のまま性能を引き出せたとしたらどこをどのように設計者は意識し、また施工者と意識共有すればよかったのか?をまとめて、解体に関する報告を終わりたいと思います。大切なことはほとんど文章で書きましたからこの図はイメージとして設計脳に焼き付けてほしいと思います。赤線が「気密ライン」、黄色が断熱材、水色が外気(通気層)です。室内から1:気密、2:断熱、3:通気層の順で計画します。特に1と2は必ず一筆書きで完結しセットで考えることが大切です。どんなに複雑な断面形状であってもこの1~3を完全に理解し自由自在に設計できると(既存)のような屋外でも屋内でもない「曖昧空間」がなくなり、熱的な事故が激減します。もちろんこの「曖昧空間」の排除は相対的に室内空間の拡大を意味しますからさまざまなスタイルの室内空間をより多く、安全に生み出すことも可能にします。
 
今日は西内まりや ちゃんなんていかが、こんだけきれいで歌も最高!凄いね!
 

山の手の家 天井解体

こちらは天井の吹込GWを気密+防湿ビニールと一緒に解体したところ。垂木を受ける母屋(□105)や垂木(45×60)、野地板(180×12)なんかが見えます。この北海道スタイルの無落雪屋根の構造が最上階の桁梁の上に束立による四角く背の低い小屋組みを載せた構造であることが分ると思います。ちょっと気になるのは天井の野縁(天井の下地)廻りは金属製の軽天部材が使われていることです。前回の記事でも断熱層を貫通する部材の熱伝導率には注意が必要である事を書きました。小さな釘一本でも熱橋(ネッキョウ:熱の通り道の意)を生じると室温の高い側で簡単に結露してしまします。その観点から上の写真を見るといかがでしょう?野縁を吊る棒は金属製であるばかりか断熱層を貫通して外気が出入りする小屋裏に露出しています。足元の30~40cmは断熱材に埋まっていますがそれより上は外気に曝され、母屋に打ち込まれたインサートから吊り下げられていました。
結論から言うと天井断熱においては断熱材を貫通する形で金物の天井下地を使うことは良い選択とはいえません。小屋裏の外気の冷たさを伝えてしまわぬように天井の下地も全て木製とすることが大切です。個人的には断熱層を貫通せねばあちこちが納まらない「天井断熱」自体があまり好きではありません。理想は屋根断熱として断熱と天井組みを分離する方法がよいと思います。
 

こちらはスノーレーン(雨水の流れる水路)の底を室内側から見上げたところです。右側に梁セイ(梁の垂直方向の寸法の意)が36cmの大梁が見えます。重たい雪を半年間も載せておく北国の屋根にはこれくらいの寸法の梁がよく使われます。問題はこの大梁に沿ってスノーレーンが通っていることです。写真でも分るとおりスノーレーンの底と梁の天端(上端の意)の間の隙間はほんの僅かで、吹込GWで塞がりやすいのです。いったん塞がってしまうと小屋裏の換気がスノーレーンの左右に上手く流れず結露を生じやすくなります。前回の記事で天井のビニール越しに見えた茶色い染みの正体はスノーレーンの底に使われた赤ラワン製の耐水合板の色だったようです。
 
              
こちらがその結露部分のアップです。ラワン合板が結露する事により赤い渋色が直下の吹込GWの上に垂れて13年の間に染みを生じていました。
 
 
こちらは天井から落とした吹込GWを雪かきスコップで片付ける大工さん。この当時のGWはマット物も吹込みも、ちくちくして質がよくありません。現在の新築は全てマット物にしているので素手で触れますし服装も普段と変わりません。しかしこの当時のものを解体する場合は写真のように全身防護が必要になります。今後のリフォーム社会を考えると建材はどんなものでも安全に解体できるものにするべきでしょう。
 



こちらが天井断熱を小屋裏に上がって見下ろした写真。吹込GWの向こう側が天井です。天井を吊っている吊棒が断熱層を貫通して冷気に曝されている様子が分ると思います。話は変わりますが国が薦める「長期優良住宅」では天井断熱に天井点検口を設けて小屋裏の構造材を確認できるようにすることが求められますが、断熱層と構造が一体となるこうした天井断熱ではいかに困難な事であるのかよく分ると思います。想像してみてください。ハッチを空けて天井裏を確認した後、ハッチを閉めます。さてあなたはハッチの上に吹込GWをどうやって戻しますか?(笑) 天井断熱である以上は独立した小屋裏ごとに高価な断熱気密点検口を用いねばなりません。こうした部分は設計をより進化させるところでしょう。

こちらが無落雪屋根の外観。白く見えるのがスノーレーンです。こんな風に屋根の中央部分に雪や雨水を集めるように通常とは逆勾配が付いています。でも奥になにか突起が見えます。

なんと防水コンセント。読者の中にはなんでこんなところにコンセントがあるのか理解できない人がいるでしょう。(笑)実はこれ凍結防止ヒーター用のものなんです。でも通常は外壁側に付けます。この位置だと屋根の雨水管が詰まると水面下に沈んでしまいます。防水コンセントは水中コンセントではありませんので悪くするとショートしてしまいます。北海道で一般的なスノーレーンの屋根の欠点のひとつは排水先として雨水や下水設備という都市インフラが必要な点と家の中を上下に貫通する雨水管を凍結から守る熱線ヒーターが欠かせないということです。これは裏を返せば都市インフラの余力を奪う事ですし、都市生活者ほど電気エネルギーへの依存から抜け出せないという負のスパイラスを生みます。そんな理由で、北国の陸屋根を進化させる必要性を感じています。
 
今日はChayなんていかが?平成風な昭和フレーバーかね~(笑)