3.11以降急速に再生可能な「自然エネルギー」を社会に取り入れる動きに注目が集まるようになりました。太陽光パネルや風車による発電等はその好例といってもよいでしょう。確かに、様々な自然の力を簡単に電気に換える設備と技術は明解で便利という点で、その趣旨を満たすものかもしれません。しかし私たちの周りにはもっと身近で遥かに豊かな自然エネルギーが存在することは意外に知られていません。またそれらを利用するコツや家づくりは冒頭の設備と技術の持つ華々しさに比べると残念ながら地味な存在です。今日はそんな地味な自然エネルギーをご紹介します。(笑)
北海道は北緯43°~44°に位置し冬の厳しさはあるものの、似た気候の国々と比べて遥かに日照に恵まれています。驚くべきことに建物の熱ロスを抑え窓廻りを適切に設計(工夫)すると、年間に必要な暖房エネルギーの3割以上は日射でまかなえるほどです。要は残り7割弱をいかに融通すればよいかで、本来必要な断熱を施せば、家電や調理、人体や照明さえ無視できない暖房熱源に変わります。実は本当に必要な暖房エネルギーとは日射とそれらを差し引いた残りでよく、40坪程度の家なら、厳寒期の全館暖房に要する熱量は余裕を見ても2~3kw/h(カセットコンロ1台程度)で十分です。
南側の大開口を夏の強い日射から守る外付けブラインド高断熱建物を日射遮蔽すると、真夏に窓を閉めていたほうが涼しくなる。 (2010年菊水の家)
太陽光は光と熱が混ざりあった高度なエネルギーですがそれをわざわざ一度電気に変換するのではなく、手っ取り早くそのまま「明るさ」と「暖かさ」として使います。日光の特徴はものに当たると熱に変わることですから設計者の役割はせっかく室内に取り込んだ熱を逃がさぬよう断熱や蓄熱性の高い素材を選んだり、逆に暑くなり過ぎぬよう窓廻りを工夫することです。特にこうした開口部の工夫は日射遮蔽と呼ばれ主に温暖地域で発達してきましたが最近はこれらに冬を背景にした断熱を加え、1年を通じ穏やかでヒートショックの少ない省(小?)エネな家ができるようになりました。温暖地と寒冷地の考え方を上手に融合することで、最大の自然エネルギーである太陽光を発電とは違なる視点でより簡単に暮らしに生かすことができます。
暖房シーズンの室内と屋外には大きな「内外温度差」ができますがこれも有効な自然エネルギーです。断熱気密した建物で冬、同時に1.2階の窓を開けると煙突効果で一気に屋外の空気に入れ替わります。暖かい空気が上階の窓から逃げる分、下階に冷気を引き込むのですが、これを少しずつゆっくりと、引き込む冷気を暖めながら行うと、「パッシブ換気」と呼ばれる優れた換気暖房になります。特徴は暖房と換気を一度に行えることと従来はそれぞれに必用だった専用設備がほぼ必用なくなること、なんと言っても年間を通して換気用に連続運転していたモーターファンとその電源が煙突効果と引き換えに必用なくなることです。
しっかり断熱された床下に少量ずつ引き込まれた新鮮外気はこれまた小さなヒーターで予熱され軽くなります。暖かく軽くなった新鮮外気は家中に暖房熱を届けると同時に換気も行い最後は排気口から外部に排出されます。
「冬の寒さ」もたいへん素晴らしい自然エネルギーです。しっかり断熱材と断熱扉で区画された冷温庫を家の一角に作るとこの素晴らしさを自在に生かすことができます。特に冬場、凍らない程度の低温と湿度は野菜の甘みを増し葉物野菜は驚くほど長くその鮮度を保ちます。お肉やお魚はもちろんお父さんのビールやお母さんのワインもいつだって美味しく冷えていますし、結果的に今までの電気冷蔵庫の役割は冷凍と製氷くらいになってしまいます。夏季こそ必須な冷蔵庫も冬場は自然の寒さにお任せすればその必要性事態が薄れます。しかしこの冷温庫の素晴らしさは実は保存だけではありません。寒さを生かすことは、発酵や醸造といった高度な調理を手軽に行える環境が身近になることを意味します。従来の家中暖かい家では不可能だった様々なお漬物も簡単に作ることができるようになります。保存と熟成、乳酸発酵による調理まで可能にする寒さとはなんと素晴らしいものだと思います。
断熱され屋内、屋外から使える冷温庫。冬場は冷蔵庫の必要性が極端に薄れる。(2012年発寒の家)
現在、高断熱高気密と呼ばれ広く普及している北海道の建物の多くは残念ながら、身近な自然エネルギーを暮らしに使い楽しむためには不十分です。一般的にこうした建物の断熱コストは総工費の2%程度で比較的良いものでさえ厚さ約15~20cmのグラスウールを壁に用いるくらいです。これは依然、寒さの対処療法として消極的に断熱を捉える意識だと思いますが、今や断熱は季節を問わず自然エネルギーを生かす暮らしに欠かせない設え(しつらえ)と捉え直すべきでしょう。せめて倍の厚さの断熱材を使うことが早く、当たり前になってほしいと思います。