2013年8月17日土曜日

屯田の家 気密測定直前

すっかりお馴染みになった、中間期の気密測定。通常は行わない現場がほとんどですが弊社の場合は、中間期に1度、竣工完成時に確認のため1度の都合2回を新たな技術標準(お約束!)としています。実は一般的といわれている住宅の作り方(標準仕様書)の中には改良すべき点が多々あって、私の事務所とその仲間たちはその作り方をさらによいものに改良する事に全力で取り組むことにしています。

日本の場合、一応のお手本となる作り方(納め方)を標準仕様書や仕様規定という方法で定め(見える化)しています。どう作れば良いかが具体的に分かりやすいという事は反面、作り手が消極的な場合(とりあえず量をこなさねばならぬような企業体質や、そもそも理想のお手本が標準仕様書でよいのだ。と信じ込んでいるような作り手。けしてやる気のない人とは違います。笑)は、本来、作り手にとって大切な、「素朴な疑問」や「前向きに疑う(検証する)」という頭を思考停止させてしまい易いのです。日本人の短所の一つは「周りと同じならばとりあえず安心してしまう」ことですが、まさに建築の性能面を支える部分に、今や時代遅れ(先輩には失礼ですが、私も含めて時代の中で陳腐化せざるを得ないという意味で)ともいえる「標準仕様」がたくさんゾンビのように生き残っていて、設計者も施工者も管理者も監理者も疑いはおろか頭から信じ込んだまま、ものだけが出来上がってゆくことに、特に若い世代の作り手の皆さんはもう少し敏感であってよいと思います。先輩が作ったものが良いから、権威ある「標準仕様」様なのではなく、より良く進化させてこそ、真のリスペクトなのではないでしょうか。


窓廻りは4周を外部側からはソフトウレタン注入(断熱補強)とし、室内側からはシリコンコーキング(気密確保)して気密検査前の準備とします。管理(監理)上のポイントは、ウレタンのみで気密と断熱を同時に取ることは難しいということを管理(監理)者が正しく理解しているか否か?なのです。

古い仕様書の中には、この部分を、ほぐしたグラスウールを詰め込めば良いとしているものも多い。もちろん綿状のグラスウールは空気をじゃんじゃん通しますので、窓廻りの気密は全く上がりません。

昨日の雨が残る屋根。必ず外装材を貼る前に(防風透湿シート)が露出している状態で第一回目の気密検査を行います。

壁を貫通する管類は窓と並んで納め方の難しいところ。室内側はガスケットを用い、屋外側はアクリル気密テープで気密補強します。

気密測定直前の外観はこんな感じです。

室内は二重壁構造となっていてオレンジ色に見える気密シートを破る必要がないように工夫しています。右下に追加で入れる予定の5cm厚のグラスウールが見えますが、たとえば電気や水廻りの配線、配管類はこの中を通り、ビニール(気密層)を傷つけることが極力ないようにします。一般的な仕様書ではこのビニールの上に直接室内のボードを打ち付けます。つまりスイッチやコンセント、壁付けの照明等はすべてビニールを破って配線せねばならないのです。対策部材として気密コンセント等がありますが、要は断熱材の厚さを減らしてそこにボックスを埋め込み気密化する方法で根本的な解決にはなりません。またボードの厚さが10mm程度しかないので、たとえばスイッチの穴を開口しようとして電気屋さんが鋸(ノコ)を差し込めば、ビニールやボックスを誤って貫通してしまうことも少なくありません。冒頭のように二重壁にしてしまえば、鋸に壁厚の線を引いておくだけでビニールの手前で鋸を止めることは難しくないのです。

構造金物の貫通部分も入念にテープとコーキングで気密化します。
地震の揺れの際に桁や柱から2階を支える大切な梁がすっぽ抜けないように、金物を2丁掛け(通常は一つ)して固定してある部分。当然ながら金物は気密ビニールを貫通し外部の構造材とつながっています。ここでも二重壁のおかげで金物とビニールの間を存分に気密化することが可能になります。ちなみに従来の柱の表面に気密ビニールとボードを貼る一般的な仕様では気密を示すC値は0.6cm2/㎡程度が多いのですが、冒頭の改良型の工法に切り替えてからはこの性能が倍も良くなりました。もちろん現場のスタッフの努力が大きいのですが、不十分な設計を認め改めることの大切さにもっと設計者も積極的であるべきだと思います。

こちらは北西角の浴室の床下ですが、暖房配管を金網メッシュに固定して置き敷きする事で将来的な増設やメンテ、さらには裸になる浴室が足元からほんのり暖かいといった細かな要求を両立させます。

もちろん放熱器具を用いないので割安に広い面積を暖房できて費用対効果も上がります。特にこの費用対効果は設計者の腕の見せ所であるのと同時に、建て主さんとの大切な協働作業ともいえます。 どんな素晴らしいアイディアも建て主さんの理解と承認がなければ実行に移すことが出来ないからです。しかし建て主さんの多くがどんな準備をして家づくりに臨んでいるか?といえば、近年は圧倒的にインターネットからの知識です。あえて言うなら、私も作り手の一人として、WEBで公開する情報はかなりセレクトした質の高いものに限定しています。そこに注視することなく様々な作り手の発信する情報を好みのまま収集しただけでは、要望はどんどん肥大し、本人の意志とは別に現実的な資金計画とは乖離してしまう場合が少なくありません。  求める情報が手軽に入手できること自体は素晴らしいことであっても、自分にとってほんとうに大切な情報は、誰かに教わらない限り気付かないのがインターネット社会の恐さでもあります。その呪縛から逃れ、インターネットで見た「他人さまのなにか」ではなく「自分なりのなにか」を見つけることこそ、設計者のみでは到底、成し得ない建て主さんとの協働作業なのです。

作り手の立場で言えば、こうした地味な積み重ねがより良い建築を作るのであって、一昔前の 「○○ 先生に全てお任せしました。(笑)」といったビジネスモデルでは、もはや不十分と感じています。作り手のスキルUPは当然ながら、建て主さんも積極的に家づくりに参加する時代。膨大な情報が溢れ、選ぶことをどんどん難しくする現代とは、そうした時代なのかもしれません。 これから家づくりを目指す方々にはぜひこうした側面を思い描く、想像力を(少しだけ)持っていただけたら...こんなに嬉しいことはありません。(笑) よく建築家の中に「私の作品」と公言する(ほんとか?笑)人がいますが、このブログにある家の全ては作品などではなく、建て主さんとの協働の成果なのです。

一般的な仕様書では床下の湿度が上がらないようにビニールやコンクリートで防湿に配慮することまでしか求めていませんが、1階の面積にほぼ等しいこの床下という空間を様々に生かす知恵(アイディア)は今後の北海道の家を大きく進化させる可能性を秘めています。

今日は少しめんどくさいことを書きましたけど...(笑)
古内東子なんていかが http://www.youtube.com/watch?v=BP0B6XPMq8Y