断熱を単なる寒さ対策としか考えていなかった頃は庇のない陸屋根をよく作っていた。(写真は東光の家1999/旭川)断熱をしてもある程度寒さは仕方がないのだから日射はむしろ入れば入った方が暖かい。夏涼しく、冬は穏やかに暖かくなどと言うよりは日射も断熱と同じように寒さ対策と考えていた。それ程までにクライアントにこの家は寒いと言われることを恐れていたのだ。不思議なもので当時から各地域別の仕様規定というものがあり、とりあえずその仕様通りの断熱厚さとすれば設計者の仕事は終ったものと考えていた。いつの時代も無知と思い込みは恐ろしい。宝の持ち腐れという例えがあるが20年前の自分はまさにそれだった。当然ながら夏場日射を遮るものがなければもの凄く室内は暑くなった。しかし「熱い暑いも二週間!」と言われた北海道の気候がすぐに夏を秋に変え、結果として大事に至ることはなかった。ところが時代は変わり、断熱をどんどん増すことで今まで仕方がないと諦めていた多くの事柄が解決できるようになると、この問題がまた頭をもたげるようになった。しかも今度は真冬にである。外が零下であろうと冬の低い日差しは眩しさと熱さを室内にもたらしひどい時には暖房しながら窓も開けるという愚かしい事態になった。
冬を旨とすることで、落雪を嫌い、寒さを嫌った北海道の陸屋根は「説明のし易さ」という点においては優等生だった。一方、街並みや景観といった観点からは無愛想とか箱もの住宅なんて笑われることも少なくなかった。しかし今、断熱を増したことによって季節を問わず「日射遮蔽」の必要に迫られ庇のない箱もの住宅がその姿を変えようとしている。写真は「西野の家2011」の大きく跳ね出した南側の庇。この庇で日光を遮らないと室内は冬でも簡単にオーバーヒートしてしまう。断熱を増すことで、照明や人体発熱、家電や調理、入浴の排熱まで有効な暖房熱源として簡単に使えるようになった今。設計思想は夏を旨とする方向に向きを変えつつある。ここで大切なことは回帰ではなく向きを変えるという点だろう。ここで言う夏を旨とは断熱を主体としたものであって従来の通風や換気を主体としたざるのような夏旨住宅とは異なる。窓からの日射さえ抑えれば断熱住宅はむしろ従来の住まいより数段涼しい。冷房の効きもぐっとよくなる。もはや断熱に冬向き夏向きと注釈を付けていた時代がなんだか馬鹿らしく思える今日この頃です。
庇のある陸屋根?的な表情(笑)
窓上の庇を70cmくらいスパッと跳ね出すのは雪過重を考える必要のある北海道では結構悩ましい。そこでスチールのプレートと付加断熱用の下地を利用して庇の下地を取り付けている。
こうすることで大人が乗っても落ちない庇が出来上がる。垂木が熱橋となりにくいように周囲にはグラスウールとウレタンで断熱補強を施す。
今日はプッチーニなんていかが