2012年5月6日は日本中の原発が全て停止した日になりました。私の暮らす札幌市西区は朝のうちは風が強く、昨日に続いて天候が崩れるかに思われましたが今現在は青空が広がり、すがすがしくも穏やかな連休最終日になりました。
今国内はたくさんの問題に直面し、恒常化するデフレの中で閉塞感が広がっています。国民の期待を受けて誕生した民主党政権も度重なる総理大臣の交代劇や各大臣の更迭ばかりが目に付く中で、思ったほど成果を上げられず、改革に夢をたくした有権者を失望させているように見えてしまいます。先日の内閣支持率が3割を下回る中で今後さらに厳しい政権運営に取り組まざるを得ないでしょう。
一方で地方には、積極的な意味で国に頼らなくてもよい道を模索する動きも見られます。政権交代が当初期待したほどは世直しに直結しないことがだんだん明らかになる中で、身近なところで、「できることはしようよ!」という、市民の前向きな意思表示のように私は感じます。近年の若者を行過ぎたゆとり教育の側面から批判する声が根強い反面、畑作りや庭仕事、将来の移住をにらんだ田舎暮らしや都会から離れた田舎のサテライトオフイス(本社機能を中央に残しそれ以外を地方に配置する従来の支社方式ではなく、本社の機能そのものを都会と田舎で共有するのがサテライトオフイス。本社でできることは基本的に何でも地方でできる。)のように、趣味を入り口として仕事や暮らしも抵抗なく地方に移すことに若い経営者たちが積極的なことはもっと評価すべきだと思います。もちろんその背景にはインターネット環境の整備が欠かせませんが、そうすることで都会で働いていたサラリーマンのストレスが減り、地方は過疎の不安を拭えるのであれば、従来のような補助金頼みや原発を含めた公共施設の誘致とは別の道がうっすらと見えてくるような気がします。受け入れる自治体としても、これまで公共工事や施設誘致に使っていた労力を通信環境の整備や空家の改修と不動産市場の整備に回し街をあげて新たなコンセプトで受け入れを推進してはどうでしょうか?
北海道の推進する「北方型住宅ECO」、と札幌市の始めた「札幌版次世代住宅基準」、従来からある国の「次世代省エネ基準/99年基準」。実はこれらはとても面白い関係にあります。一番古いのは意外や「北方型住宅」の基準で1988年にスタートし順次改定を重ね2008年に現在と同じQ値である1.3W/㎡k(Q値:熱損失係数。一般的に数値が低いほど熱が逃げず省エネ性が高くなる。)の性能値となりました。国の「次世代省エネ基準」は1999年に始まり現在まで内容の改定はほとんど行われていません。最近はむしろ国の関心はソーラー発電や燃料電池、ヒートポンプを採用した省燃費性の高い附帯設備に移っています。最後は今年度から始まった「札幌版次世代住宅基準」。あえてこの特徴をズバッと!言うと...(笑)
札幌市のスタンスは国と道の取り組みに「一定の評価はしても今後も十分とは考えていない。」ということではないかと思います。実際に札幌版では国の基準を最下位の「ミニマムレベル」これ以下のものは原則として作るべきではない。という位置づけがされていますし、道の基準をそのひとつ上の「ベーシックレベル」文脈の前後を読んだ印象では、消極的な意味での基本的な水準とし。その上にはじめて「スタンダードレベル」札幌市の目指す基本はむしろここからですよ。といった順番になっています。ビジュアル化すると...
ミニマム(国)<ベーシック(道)<スタンダード(札)<ハイ(札)<トップランナー(札)
Q値:1.6(国)<1.3(道)<1.0(札)<0.7(札)<0.5(札)
ここから先は、あくまで私の印象ですが(笑)、国と道に一応の気は使っているものの、これから札幌に建てる家は少なくとも「スタンダードレベル」以上を目指しましょう!という意思表示に感じますね~。簡単に「スタンダードレベル」と言ってもQ値は1.0以下ですから、要は壁:30cm、屋根40cm程度のグラスウールが必要になります。(*:機械換気を過大に評価しないことを前提にする計算が現在の主流。従来の熱交換換気のメーカーが自己申告した性能値をそのまま使用すると、極端な話、従来とほとんど変わらない建物仕様でQ値1.0が達成できてしまう。北方型住宅でも2010年からはこの矛盾に配慮しQ値の算定の際には熱交換換気の採用が禁止された。)
こんなところにも以前は国や県に右倣えだった地方都市のスタンスが大きく変わりつつある現実を感じるのです。統計を見る限りにおいては、1988年以降北海道における暮らし部門のCO2は増え続けています。1999年には国による基準が導入されましたが残念ながら排出量は減少していません。しがらみのない素直な頭で考えれば、果たして効果があったのか?なかったのか?は明らかだと思います。では誰ならその事実に対して手が打てるのか?そんな意味では自分の暮らす街が下した決断にエールを贈りたいと思います。
3.11の大震災以前は、主に高齢化や事故防止の側面から設計者の多くがオール電化住宅をなんの疑問もなく取り入れてきました。かつて主流だった一世帯30A(アンペア)契約は今ではほぼ倍の容量になり、別契約で暖房用電力も追加導入するケースが当たり前になっています。建物の省エネ化で削減されるエネルギーより遥かに多くの電力需要を各家庭に割り振ることで家庭部門の電力使用量は建物の省エネ化とは一見関係なく増大せざるを得ない印象を与え、冒頭の安全性への意識も手伝って電化住宅は増えてきたのです。ちなみに札幌市の基準によればQ値が0.7で「ハイレベル」だそうでこれは2010年の「菊水の家」と同じ水準です。そこで建て主さんの了解を得て年間の電力使用量を見てみると冬季が約1000kw/月程度、夏季が約500kw/月程度。価格は冬場が1.4万円程度、夏場は0.8万円程度、年間を平均すると月の電気料金の合計が1万円以内に納まります。
実際には建物の省エネ性の向上には附帯設備の高性能化よりも建築本体の断熱を主体とした省エネ化のほうが遥かに大きな効果を実感できます。話は変わりますが最近巷で流行の余熱調理なども鍋の断熱を上手に利用した調理法です。熱を不用意に逃がさなければ、一度得た熱を最後まで効果的に使って調理ができます。沸騰させるのは最初の5分だけで後は放っておけば調理は終了。主婦にとっては出来上がりの時刻さえ逆算できれば、手間もガス代も掛からない手軽さ。震災以前はぜんぜん見えなかった環境時代にぴったりの知恵がうっすら透けて見えるような気分になりませんか?(笑)
ちなみに余熱調理用の高価な鍋をわざわざ買わなくても余熱調理は可能。今お使いの鍋を厚手のタオルでくるんで魚箱のような発泡スチロールの箱に入れて30分。カレーやハヤシ、シチューなんかの煮込み料理は素晴らしく美味しくできます。ぜひ一度お試しを!
話が脱線してしまいましたが、少なくとも私の見てきた範囲では家庭の電力はまだ大きく減らせる余地があると思います。しがらみや各所に対する配慮も大切ですが、しがらみの薄いうちに思い切って決断し、従来とは違う考えや事実があることにもっと目を向けることが今の時代にとって大切ではないでしょうか?
今年、挑戦する「発寒の家」は札幌基準の最高レベルとなる「トップランナーレベル」をクリアすべく現在進行中のプロジェクトです。年間の必要暖房熱量は灯油に換算すると94L/年となり、最も暖房を必要とするピーク時(外気温-13℃、室温22℃の時)で家全体を暖房する際に必要な熱量(暖房設備の大きさ)は800W以下(一般家庭でよく使うオイルヒーターが概ね1000~1500W)と試算しています。
電化住宅を作って来たという側面において、私は原発反対論者ではありませんが、今後のエネルギーに対する問題を論じる際にこうした事柄が市民に広く公開される社会であることを心から願っています。いたづらに電力不足の恐怖を煽ることなく、社会実験の一環と考えて原発が止まった今を捉えてはいかがでしょう。その中で見えてくるものの中にこれからの課題と一緒にヒントが隠れているような気がします。
今日は大好きなスガシカオとYUIの歌声なんていかがでしょう?
http://www.youtube.com/watch?v=Mp4zvTgZ5RM&feature=related