本日は完全に撤去予定の3階部分の内壁を断熱材ごと全て解体しました。天井のグラスウールブローイング(吹き込みグラスウール)だけはまだ残してありますが、室内から見ると柱の外側に貼った石膏ボードが全て見えるという状況です。(詳しい壁の構造は以前のブログを参照してください。)
さて今日は北海道で標準的な断熱構造を持つ建物の壁や天井の内部が13年という月日の中でどのように変化するかを見てみたいと思います。上の写真は天井の吹き込みグラスウール(以降:吹込GW)を見上げて撮影したものです。吹込GWは通常のグラスウールを細かくしたものとお考え下さい。ガラス繊維で出来たダウンの羽のような感じです。室内からの湿気で傷まないように写真のようにビニールを貼った中に機械を使って必用な厚さを吹き込んで使います。北海道だとだいたい30cmくらいです。
以前のブログでも触れたように断熱材は基本的にその種類を問わず湿気を嫌います。黒く変色しているところは何らかの理由で湿気が入ったところです。上の写真はビニールに穴が開いています。埋め込型の照明器具(ダウンライト)を使っていた跡です。ダウンライトをビニールを破って断熱材に埋め込んで使用する場合は専用の製品を使うか適切な工夫を加えます。それらが不十分だとこうした状態になりやすいのです。
こちらの写真は柱の根元から天井を見上げたところです。これはよくありません。その理由は柱を挟んで左右のビニールがつながっていないからです。ビニールの無いところからは室内の湿気が天井に逃げますし、天井の冷気はこの隙間から下の階に降りて部屋を冷やします。正しい施工はビニールを先行させて隙間を作らないか、どうしてもそれが難しい場合は室内側から気流止めと呼ばれるグラスウールをしっかり押し込んで隙間を塞ぐことです。
こちらは元ユニットバスの窓廻りです。ユニットバスは解体しました。湿度の高い部屋のサッシ廻りや壁の内部がどんな風になり易いのかがよく分ります。遠目の写真でも窓の上の石膏ボードが黒ずんで染みのように見えています。
その正体は黒かび、室内の湿り空気が壁内部に侵入しグラスウールを通り抜け、外気で表側を冷やされた石膏ボードの裏で結露(水に変わること)を生じたのです。水分は水蒸気のままならあまり極端な悪さは起こしませんが一端、液体に戻してしまうといろいろと厄介な問題を生じます。それが壁の中だと場合によっては構造材の傷みのような事態に発展するケースもあります。しかしあんまり心配するのも考えもの、確かにカビは生えていましたが13年間でこの程度、石膏ボードもしっかりしていましたし、構造体の痛みもありませんでした。さらには浴室の換気扇が故障していて使えなかったということですからそれが機能していたらきっと問題はなかったと思います。よく浴室の換気扇はお風呂を使うときだけの人がいますが安全を見て付けっぱなしの方が私はよいと思います。お引渡しの際に他の建て主さんにもそうお伝えしています。
こちらはLDKの壁。柱と柱の間に見えているのが石膏ボード。浴室以外のところは特に目立った傷みは少なかったです。
さて今度はちょっぴり深刻なお話しをしましよう。上の写真は柱を外れて打ち損ねた釘を室内から撮影したものです。でも随分錆びていると思いませんか?その理由はこの釘が外から冷やされてグラスウールの内の空気を結露させからです。グラスウールの断熱性のキモは抱え込んだ空気です。しかし空気である以上100%の絶乾状態を維持することは難しいのです。熱伝導率(熱の伝わりやすさを示す指標)の高い鉄が壁内にたった一本飛び出しただけでその釘は熱橋(ねっきょう:熱の通り道)となって壁の中で水を生産してしまいます。
全体的に見るとこんな感じ。床からちょうど50cmくらい上に一本だけ突き出ています。気になる柱の足元を見てみましょう。
こちらがその柱の足元。全長たった3cmの釘が作った水の跡が見えます。室内の湿り空気が壁の中に入り難いようにビニールを貼ったところで、グラスウール自体に含んでいる湿り空気を結露させてしまうのではきりがありません。このように釘を打ち損ねてしまった場合は抜いて打ち直すか、それが難しい場合はウレタンで釘ごと断熱処理してしまいます。もう一つ別の解決策は釘の頭の上にさらに断熱材を貼ることです。要はそもそも釘自体を冷えないようにしてしまう事です。釘が冷えねば結露など起こりません。したがって室内からのウレタン処理も必要なくなります。
天井に茶色の染みが見えます。これはなんでしょう?
この写真一枚を見てぴんと来る人は現場の達人です。まず染みが手前から奥までずっと続いていますよね、今まで見てきた黒い染みとは違ってこちらの染みは茶色です。染みの続く先に銀色に光る配管のようなものがあります。これは屋根に溜まった雨水を落とす雨水管、茶色の染みはそこに向かって伸びています。要はこの茶色染みの上にスノーレーンと呼ばれる水路があってそこを流れた水を落とすのがこの雨水管だと考えて下さい。屋根の構造がだいたい想像できると思います。水路の底は冷たい雪解け水で冷やされていて、最も天井に近い位置を通っています。屋根の水を集めるためには屋根の最も低いところに水路を設けねばならずそれは同時に天井と水路が最も近づくことを意味します。
ではその水路の真下にダイニングテーブルがあったとしたらどうでしょう?冬のお鍋やホットプレートを使った料理は天井を温めますよね、食堂ですから暖房の設定温度も家中で最も高くなります。そうした熱が天井を温め、小屋裏の外気に伝わります。この外気は動くので通常ならすぐに熱は外に逃げてしまいますが、先程お話したように水路の底が天井に一番近いということが災いして、小屋裏の換気が間に合わないと、このように少しづつ結露水が蓄積します。水路の底が結露し、断熱材の上に落ちた水滴が茶色の染みの原因です。室内の湿り空気が直接漏れた箇所は黒い染みとなり、部屋の熱だけが逃げた部分は茶色い染みを生じます。
この形式の屋根をスノーレーンと呼び北海道では非常に多く採用されていますが断熱の方法や水路の底の空間的な余裕(通常は10cm以上断熱材から離し小屋裏換気は屋根の全周で所定の面積を確保する)等細かな配慮が欠かせません。計画ではこうした従来の屋根の短所を改良した0勾配のシンプルな屋根に葺き替えます。
スノーレーン屋根??なにそれ? という人は別の建物ですがこの写真をご覧下さい。こんな風に建物の端から雪が落ちないように屋根の中央に集めて融けた水だけを下水に流します。この建物では壁に貼りついている雨水管が部屋の中にあると思っていただくとよいと思います。