2013年12月27日金曜日

今年一年ありがとうございます。

 
思えば、あっ!という間の一年。お世話になったみなさまに心より御礼申し上げます。たくさんの仕事を通じて貴重な学びの場を与えていただいたクライアントのみなさま、特に今年は急増した視察や取材、見学会に際して、快く自宅を公開し広く全国に北海道の住いを紹介するチャンスをいただいたことに心より感謝申し上げます。一方で遠路はるばる北海道まで足を運び現場に来ていただいた全国のみなさまにも同じ気持ちで一杯です。つい最近まで北海道と本州の作り手が同じ話題を共有すること自体珍しかったと思います。そんな中、3.11東日本大震災を契機に大きく意識が動き始め今につながっています。今後ともぜひみなさんのお手伝いをさせていただければこんなに嬉しい事はありません。また日々の復興の忙しさにもかかわらず東北まで、お招きいただいた方々、従来の省エネの枠を越えて、北海道に暮らすことの魅力を家づくりを通して取材していただいたマスコミのみなさま(取材の視点が斬新であることに私の方がむしろ驚かされました。)、北方型住宅をデザインすることに懸命に努力された関係機関のみなさまにもこの場をおかりして感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました。みなさまの応援を胸に、また来年も精一杯ものづくりに打ち込みたいと存じます。 それではみなさま良いお年を!(笑)
 
環境建築家 山本亜耕
 
それでは今年はヘンデルのハレルヤで!
 
2014年は1/7(火)より営業いたします。
 

西野里山の家 内覧会を終えて

実は、「西野里山の家」で300mm断熱プロジェクトも早12棟目となりました。当初は省エネを主な目的に、ドイツのパッシブハウスに負けない住宅を長年に渡る北海道の蓄積で作ることを目標に始めた取り組みでしたが、省エネを入り口に様々なメリットが次々に明らかになり今では設計させていただくお住いのほぼ全てが300mm断熱仕様となっています。2008年、ネット0エネルギーハウスを目指した「銭函の家」の挑戦からあっという間に5年の月日が経ちました。その間に3.11東日本大震災が起こり、今まで当然としてきた私たちの社会が見直される契機となりました。漠然と省エネを唱えていた震災前と後では急速に意識が変わり、今まで温暖地とされていた本州の各地で急速に断熱やそれに附帯する技術に注目が集まるようになりました。エネルギー資源に乏しい国でありながら長年野放しだった、暮らしのエネルギーの分野にも法制化の道筋が見え、「暮らしに必用な燃費」という概念もずいぶん広がりました。従来はまち医者の心配事であった冬場のヒートショックは住宅内の温度差が原因という切り口で建築系研究者にとって関心の高い研究領域となり、先進国ながらほとんどの地域で住宅内の温度差を解消できない家のつくりとそれらを問題視してこなかった過去に痛烈な反省と批判が注がれるようになりました。同じように災害時の室温変動と自宅避難の可能性を建物の断熱性から検証することもずいぶんと普通に行われるようになりました。国に先駆けて札幌市が進める、「札幌版次世代住宅基準」の最高ランクは壁が約50cmの断熱という凄まじいものです。そんな風にあらためて眺めるとこの5年間でさえ、実に大きく世の中の意識が変わり、そのうねりは今後さらに大きくなくなって行くことでしょう。なんだかずいぶん前置きが長くなりましたが、この「西野里山の家」はそうした大きな変換点の最中のプロジェクトとなりました。
 
日本一暖かいと言われることの多い北海道の家ですが、それは良くも悪くもその家全体に設置された大きな設備のおかげで、当然ながら稼動には大きなエネルギーが欠かせません。従来はこうした家の燃費の悪さをその気候を理由に「仕方がない。当然だ。」と諦めてきた訳ですが、「西野里山の家」のような断熱主体のアプローチの登場でずっと簡単に問題が解決することが明らかになった今、それまでの設備主体の思考から卒業できるか否かに今後大きな注目が集まるでしょう。またそうして実現する「有害な寒さ」のない家の登場によって多くの人が北海道の素晴らしい季節の中での暮らしを先入観なしに味わえるようになってほしいと思います。もちろん手始めは寒さと暖かさにうるさい地元の人たちを満足させないといけないですよね~。(笑)

特徴的な煙突は薪ストーブのもの。家全体の必用暖房熱量はストーブ1台で十分ですが、建て主の要望に加え、普段の北国の暮らしの中に炎を心の癒しとして持ち込むことの豊かさと前述の災害時の備えを考慮しています。

壁を充填型断熱、屋根を外貼り断熱とし、必要のない天井裏を廃し広々とした吹き抜けを実現する二階のLDK。

日射遮蔽や視線制御の役割を持つ縦格子が生み出す陰影が印象的な室内。右の大開口部の中央に見えるのは下降気流を緩和しつつ柔らかな雰囲気を演出する間接照明。ブラインドケースも兼ねている。

家族が増えた場合も対応の自由度が広がる吹き抜けの子供室。

最近二階をLDKにするときに多くなった、LD→K→子供部屋の空間構成。写真は子供部屋からキッチン越しにLDを見たところ。

正面と上部以外は燃焼中も表面が触れる温度の薪ストーブ。不要な上昇気流を発生させず穏やかな輻射熱が室内を柔らかく暖めます。昼の短い今時分の夕方、ストーブに火が入ると、居間の雰囲気が一変します。暗く長い冬の夜を楽しむ設え(シツラエ)は、冬を嫌う意識を和らげ、人によってはむしろ冬を楽しみに待つようにさえなります。

珪藻土とカバ材の階段。中間の踊り場は読書コーナー。

お母さんの司令室であるキッチン。ここから二階の全ての場所に目が届き、最低限の移動で1階の気配を感じることもできます。

一階の気配を感じさせながら、硝子表面に起こる下降冷気を吸収する床のスノコ。

照明は極力光源を見せないように内照式として壁や天井の反射を利用して柔らかく室内に明暗が残るようにデザインします。いうまでもなく住宅は仕事をする事務所のように全体的な照度は必要なく、むしろ心の安らぎを大切に明日に向け充電をするところです。しかしごく最近まで大出力の大型蛍光灯を部屋の中央の天井に取り付け昼間のような明るさの家庭の居間が多く見られました。 


特に夜間は天井の垂木の連続が照明に照らし出されて浮き上がり特徴的な夜の室内を演出します。

必要なところは明るくしますが、程よい明暗を楽しむ室内がもっと広がってほしいと思います。

シンプルに洗練されてきたパッシブ換気。建物を十分に断熱+気密することで必用となる暖房と換気のための設備はここまで簡単にすることが可能です。暖めた空気を家中に搬送するファンやそれを作動させる電源は不要。建物自体の性能を用いた煙突効果で家中を24時間換気暖房します。もちろんWCや浴室には換気扇も装備しているので必要に応じて不便はありません。

冬場日射があればストーブの熱量は必要ありません。各家庭によって若干異なりますが、300mm断熱の家に住むとストーブは朝ちょっとと日が暮れてからしか使わない家がほとんどです。嬉しいのは、多くの人が「断熱すると暖房なんてほんとうにどうでもよい話になっちゃうんですね~」としみじみ語ってくれること。また近年は夏の涼しさが注目され、「断熱って一年中大活躍ですよね~」に感想が進化する傾向にあるのも設計者としては嬉しい限りです。(笑)
 
この場をおかりして、貴重な仕事と経験の機会を与えてくださった建て主さまとそのご家族に心より御礼申し上げます。
 
今日はこの曲を読者の皆さんに贈りたいと思います。聞きながら一年を想い返してしまいます。
Canon。ピアノはJ.ウインストンで! よいお年を!