本日は、二階南側の大窓を組み立てます。担当はおなじみ㈱エンヴェロップさん。「前田の家」では、スウェーデン製の窓を使いましたが、「発寒の家」ではイタリア製のものを使います。寒い地域である札幌の窓にイタリア製?とお思いの方も多いと存じますが、実はフィンストラル社の製品はドイツ本国のパッシブハウスにも多数採用の実績があるそうです。ガラスの面積を拡大することで、ドイツより遥かに豊富な冬の日射を積極的に室内に取り込み暖房エネルギーを大胆に削減したいと考えました。
実は、北海道って北欧よりも寒い地域がある反面、冬場の日射は遥かに豊かです。フィンランドなんかに行くと、冬場の約2ヶ月は極夜と呼ばれる夜ばかりの日が続きます。1月の中旬にやっと2ヶ月ぶりの太陽が昇り、みんなでお祝い!なんてこちら(北海道)ではちょっと想像ができませんよね?(笑)、同じように厳しく長い冬を過す地域といえども緯度の違いはこんなふうにかなり異なった冬場の情景になるのです。
一説によれば、北海道の冬場の日射量は内陸の一部を除き、年間必用暖房熱量の約3割を賄うことができるといわれています。そんな訳で北海道の気候に合ったデザインをさらに追及するためには、なんとしても高性能な窓による断熱性の向上と窓面積の拡大が欠かせないのです。
しかしみなさんもご存知のように、日本においては燃料電池やヒートポンプ、電気自動車による蓄電やHEMS(home energy management systemの略、センサーやIT技術を活用し統合的に住宅のエネルギー管理を行うシステム)が省エネの切り札と思われがちです。もちろんこれらは大切な附帯技術ではありますが、本来は断熱性をはじめとする建物の基礎体力を十分引き上げた上で、コストや導入環境に応じて最適な組み合わせをチョイスすべきものです。熱の出入りを抑えることができない建物にこれらをフル装備しても効果が薄いばかりか、悪くするとむしろエネルギーを食うことは意外に知られていないのです。一見地味に見えても、建物の基礎体力に当たる外皮の性能をせめて先進諸国に負けない程度にしようとすると、残念ながらコストも含めて、現状の国産の窓ではかなり選択肢が限られてしまうのです。裏を返せばそれだけ建物単体ではまだ省エネ性能もマテリアルもお粗末すぎるのが悲しいかな現実です。
断熱枠の様子。内部は多数の部屋に分けられ封入された空気層により断熱性が高められる。
写真は使用されるトリプルガラスの断面。熱の逃げ道となりやすいエッジ(端)部分は特殊な練り物系の樹脂により断熱性能が高められている。Low-Eガラスを二枚、普通ガラスを一枚、二つある中空層にはそれぞれ希ガスが封入されている。性能は一昔前のグラスウール10cmに迫る。国内で同じ性能の窓を作ろうとするとガラス代だけで足が出てしまう。分かりやすいハイテクも大切だが窓のような基本マテリアルの研究開発は国を上げて取り組むべきだと思う。ちなみに北海道で使用される国産窓の高性能グレードがU値で1.4~1.6W/㎡k、北欧製の木製トリプルガラス窓が1.1~1.25W/㎡k、「発寒の家」のものは0.78W/㎡kとなっている。(*U値、Uバリューとも呼ばれる断熱性を示す指標。1㎡から内外温度差1℃、1時間あたりに逃げ出す熱量を示している。建物の断熱性能を示すQ値もこの仲間と言ってもよいが、大きな違いはQ値の場合は建物の外皮性能のほかに換気器の性能も考慮されることである。)
居間の中央に収まる最大のガラスは巾1.8m高さ2m、重量は130kgオーバーのヘビー級。運ぶ時は男6人がかりとなります。
最近、性能と意匠の関係をよく考えます。北海道の建築の未来を危うくするとしたら、その二つが水と油、はたまた理系と文系のごとく対立することだと思います。よく「性能第一!」と言う人がいますが、それは意匠はどうでもよいということではありません。反対に「人には性能よりも大切なものがある!」と言う人がいますがそれもまた然りでしょう。極論や原理的な事象の単純化では解決できない時代のものづくりとは?
私は地域に生きる建築家としてクライアントの皆さまや協力業者の皆さんと共に精一杯考えてゆきたいと思っています。ようやくわが国もエネルギー問題に関して重い腰を上げ、2020年には暮らしに使われるエネルギーの法制化が見えてきました。さてこれからの10年はどんなものになるのでしょう?(笑)。これから社会を担う子供たちのために少しでも負の遺産を残さないように慎重に道を探しながら、自分にできる事をしたいと思います。
今日はリヒテルのショパンでもいかがでしょう?