無落雪の平たい陸屋根ばかりだから。
確かに最近は多いかも。しかし30年前はむしろ積極的に屋根を傾けて雪を落とそうとした時代もあった。陸屋根自体が珍しかったこの時代。果たしてなぜ勾配屋根は絶滅の道をたどったのか?聞くも涙、その影には氷柱(つらら)との壮絶な戦いがありました。
写真は有名な小樽運河沿いの軟石倉庫。現在は飲食テナントが多数入っている。当然ながら調理と客が発する熱はこんな風に外部に氷柱として現れる。
写真は南側、日当たりの良い南側よりも北側のほうが圧倒的に氷柱は大きく育ちやすい。
北海道で古い建物が残りづらいのは、寒くて住めない場合が圧倒的に多い。けして古い家の暖房器具が小さく性能も劣るからではない。暖房熱のほとんどは室内を暖めずに屋根を暖めてしまい屋根に積もった雪をゆっくり溶かす。それは氷柱となりトタンとの間で氷の板となり、屋根の上で丈夫な雪の厚い板が出来上がる。氷のそりに乗った雪の板は、昼間の暖気でゆっくり屋根の上を滑る。丈夫なものだから軒先からはねだしても簡単には折れない。ゆっくり巻き込むように折れ曲がりながら二階の窓を簡単に押し破る。果たして屋根を傾けて雨水のごとく粉雪をさらさらと落とすことなど実は至難の業であることが判明する。当初はトタンの材質や勾配の緩さが原因と考えられたが実はまったく見当はずれだった。屋根の勾配を45度以上(オリンピックのスキーコースでも最大斜度は36度程度)にしても、室内の熱が屋根にさえ伝わればまったく雪が落ちないことを目にしてみな唖然とする。人によっては室内の暖房熱が屋根の雪を溶かし雪を落とすことがむしろ建物にとって良いと信じる人も多く。あろうことか屋根を断熱することは当初大いに疑問視された。今でこそ北海道でも勾配屋根の無落雪が可能であるが、その影には断熱の研究と知識が欠かせない。
氷堤と巨大に成長した氷柱。断熱を行わなければ45度以上の屋根勾配でもまったく雪は落ちない。屋根も簡単に傷んでしまう。安心していると暖気で緩んだ拍子に数百キロの氷塊とともに屋根の雪が滑り落ちて壁に深刻なダメージを及ぼす。