2010年4月26日月曜日

これからの北海道の家って?

先日、銭函の家に温熱データーの回収にお伺いしました。ブログでも何回か書いている通り、設計の成果が出ているかどうか、クライアントの協力を得ながら確かめることにしているからです。床下をはじめ各所に置いた温湿度記録機によって月ごとの気温湿度のデーターを採取し設計にフィードバックさせるのが狙いです。もちろんその目的とは、燃費のよい設計ノウハウの確立にあることは言うまでもありません。弊社が取り組む燃費のよい設計とは、現在一般的な北海道の暖かい家とは少々異なります。では暖かくないのか?と聞かれるとけしてそんなことはありません。(笑い) 要は「エネルギー消費もしっかり設計できるようにしましょう。」ということにほかなりません。2010年4月14日の北海道新聞に、札幌市がドイツのパッシブハウス研究のための予算をつけた旨の記事が載っていますが、まさにこうした流れこそ今後の北海道の住宅の方向性を示す好例だと思います。

では今後、世界標準になりつつあるパッシブハウスとはどんなコンセプトの住宅か簡単に説明します。1:エネルギー消費量を明示できる。2:暖房設備にほとんど依存しない。そしてこれは性能以外の大切な点ですが3:現地生産できる事です。1に関しては、年間の暖房用燃料消費量が概ね2L/㎡以下、30坪(100㎡)程度の建物ならば100×2L=200L/年間(*:但し灯油換算)となります。暖房期間が半年にも及ぶ北海道で30坪の家とはいえ年間200L程度で暮らせる家があったら好いと思いませんか?ちなみに現在主流を占めている次世代省エネ基準の断熱性能(Q:1.6W/㎡k)で燃費13L/㎡程度ですから、同じ30坪の住宅だと年間約1300Lの灯油が必要な計算になります。最近少しだけ増えてきたQ1仕様といわれる住宅でさえ燃費5~6L/㎡程度ですから同じ条件なら500~600Lは必要になります。こう書くと世界のものづくりが目指す方向が透けて見えるとともに、暖かさ(エネルギー消費)をいまだに中心にした設計思想そのものが陳腐化しつつあることにきっと皆さんも気付いていただけると思います。今の時代暖かさと省燃費は両立させねばなりません。2に関しては特に注意が必要です。機械設備をエコなものに換えればECOな住宅になる!という考えが日本では支配的ですが、その前に建物の暖冷房負荷をしっかりと下げておくことが大前提です。暖冷房エネルギーが十分少なくて暮らせる家があるからこそ、自然エネルギーをはじめとする高効率の冷暖房設備が生きるのに、残念ながら建物本体の断熱強化はほとんど語られずに、とかくヒートポンプや燃料電池の話が主になってしまいます。(苦笑)これでは、大きな投資に対してほとんど効果が得られないばかりか、「ヒートポンプってすごく燃費悪いよね~」といった不幸な誤解を招くことにもつながります。この傾向は熱設計音痴の設計者に多いと思います。また数年前からかなり一般的になった、土壌蓄熱式の床暖房蓄熱式暖房機を用いる方式も注意が必要です。両者とも深夜電力とその割引率を前提にした大きな電力量契約が前提となる点に根源的な不安があるからです。そもそも発電所にとっての難問は時間帯別にきめ細かく発電量を調整できないことです。夜間、仕事が終わり社会が電力を必要としなくなると電気は余ってきます。しかし発電所を止めることが出来ないために夜間の電力需要喚起の一環として深夜電力の利用が模索されました。今ではオール電化の普及により夜間の電力需要は昼間とほとんど変わらなくなっています。これは本来あまり必要なかった夜間の電力需要を作り出してしまった結果、エネルギー生産量全体が増え、結果としてCO2が増加していることを意味しています。昔よく耳にした営業トークにこんなのがありました。「深夜電力ですから一日8時間しか通電しません。24kw暖房契約しても×1/3の8kwの器具と同じです。」私も昔は信じていましたが、実態はこうです。仕事量(W/ワット)を速度に置き換えるとよく分かります。札幌から帯広まで平均時速60km/時で3時間ゆったりドライブして180km走るのは楽しいし小さなエンジンで十分です。しかし1時間しか時間がなければ、平均180km以上出せる大きなエンジンが必要です。夜5~8時間で一日分の暖房熱量をまかなおうとするとこのように、仕事量は同じなのに肝心の設備容量をおさえることが出来ないのです。今後さらに深夜の電力需要が増えればもともとサービス価格である深夜電力の料金値上げも考えねばなりません。昼間の1/4程度の価格で供給されている深夜電力であっても発電原価に差はないのですから。これからの設計者はここら辺を理解して広い視点でエネルギーの設計をしてほしいと思います。深夜電力に頼った結果、暖房のランニングコストを見かけ上抑えられても、それをしてECOな設計とはいえないのではないでしょうか。3は現地生産できることです。たとえばドイツやスウェーデンからパッシブハウスやその部品を輸入して日本で建てても、輸送に掛かるCO2を減らすことはできません。建物の場合は建設に際して大きな環境負荷を生じますので、部品は極力国内調達が原則です。また外国と日本の住宅製造における技術標準は異なりますから、同じ木造でも生産原価は大きく上がります。要は現在北海道で普通に行なわれている工法をさらに発展させてパッシブハウスと同じ性能を現地生産できてはじめて一応の問題が解決されると思います。若い建築家の皆さんの中にはたいへん研究熱心な方も多いと思いますしクライアントのみなさまにとってもこうしたお話は興味のあることと存じます。私は地域に生きる建築家としてこの点をテーマとした設計をみなさんと一緒に進めたいと思っています。


施主曰く:銭函の家では3月の半ばからほとんど暖房は要らなくなったそうです。
太陽が入るとすぐに家が暑くなるので、外付けブラインドをよく使うそうです。高断熱を行なう際にはこのような日射遮蔽を併用する工夫が必要です。よく庇のみの方がいますが、夏至のときにしか日射を遮蔽できません。パッシブハウスと同程度の断熱を行なうと必ず必要となる仕様です。

居間から見える石狩湾は今日もきれいです。


3階は相変わらず絶景です。