2010年7月30日金曜日

まずなにから始めるの?

先週の土曜日は、日頃お世話になっているリプランさんのイベントで松下さんのショールームに呼んでいただきました。おかげさまで最近こうしたイベントやブログを通して新たなクライアントさんにお会いする機会が増えたのですが、かなりの方に「山本さ~ん、まずなにから取り掛かればよいですか?」といった質問をいただきます。そこで今回は「家づくりの上でまずすべきこと」を書きたいと思います。この優先順位を誤ると大切な時間を失いますのでよく読んでくださいね。まず大切なのは、「1:出かけるときは必ず夫婦で」です。多くの方がご夫婦で見学やイベントに来られますが、中には、ご夫婦のうちどちらかという方もいらっしゃいます。「夫は忙しくて~」とか「妻は生まれがマンションなので戸建てには興味がないので~」とか理由はさまざま。しかし家づくりは家族の問題です。家族間で認識を共有できていない。今後30年間ローンを払う本人が現場に来ない。といった状態は後々あまり良い結果を残さないことも多いのです。一人で進めようとしないで、家族を自分の夢の味方にする。突然結論のみを伝えない。孤独に陥らず、オープンに朗らかに行きましょう。

その2「現実的な資金計画を立てる」です。イベントに出る機会が増えると数組の方と顔なじみになることがよくあります。長い人になると1年以上イベント巡りを続けている方もいます。建築家はもちろんのこと、各ハウスメーカーのデザインや特徴にも詳しくてほんとうに感心してしまいます。反面、資金計画についてはほとんど手付かずの方も多いのが現状のようです。「だってまだどんな家にするのか決めてないもん!」と考えている方が大半のようですが、実はこれが意外に後々問題を起します。その訳は勤め人にとって借りられる額と払える期間は初めから決まっていて減ることはあっても増えることはけしてないからです。終身雇用が消滅し退職金や公的年金といった社会のセーフティネットが揺らいでいる状態で、35年後の補償もなしに銀行は以前のように簡単に融資はしてくれません。勤め人にとっては自らの評価が最も有利な時期を見計らってローンを組むと同時に、子供の就職や進学、親の介護といった事柄も合わせて現実的で無理のない支払いが月いくらなのか?知る必要があるのです。ちなみに現在の平均的な融資額は新築の場合で年収の約5倍が限度、過剰な負担にならずに返済できる住宅ローンの金額は年収の25%/年がMAXと考えてください。たとえば年収400万の人は最大400×0.25≒100万円/年、一月あたり100万÷12ヶ月≒8万円/月程度となります。住宅を考えるならばまず銀行に行って、可能融資額や妥当な返済プランのシュミレーションをした上で概ねの総予算を決め、住宅展示場やイベントを巡るのが良いと思います。以前私のクライアントの中には、40歳になったとたんに融資の条件が厳しくなった方がいました。現在はほとんどが民間の住宅資金ですから、以前の住宅金融公庫時代のようにほとんどの国民が融資審査を通るということはありませんので注意が必要なのです。


その3はスケジュールです。これは2とも大きく関連しますが、むしろいつまでに土地を買って家を建てるのが建て主にとって最も有利なのか?といった事柄や建て主とともに検討する時間がどのくらいあるのか?といった事にも関係してきます。家づくりに関してはほとんどの方が初めてですから、物事一つ決めるにも時間が掛かって当然です。反面設計は建築家の都合で進めるわけではなく、あくまでクライアントの意思決定のスピードと比例して進めねばなりません。私のクライアントの方々もほとんどが間取りを最終的に決めるまでに半年近く掛かっています。たとえば春先着工と仮定するとどんなに遅くとも前年の8~9月には設計を開始せねばなりません。当然設計をするためには土地を用意せねばなりませんから、土地の取得は更に前倒しとなります。要は冬の間に作ることは難しいので、代わりに考える時間にあてて雪解けとともに着工を狙うようなスケジュールを意識するとよいと思います。建築は旬のもの。余裕を見て始めることがクライアントにとっても楽しい家作りになります。


その4は「どんな家か?よりもどこに住むかを優先する!」よく家のデザインやキッチン、内装や家具から家のイメージを得ようとする人がいます。きっとそうした経験を積むことで自らのイメージが固まって行くと考える方も多いのでしょう。今の世の中が雑誌にせよWEBにせよ広告媒体が中心ですからそのような傾向もある程度仕方がないと思います。しかしプロの私から言わせるとその方法は一概にお勧めできません。その理由は、「建築は土地に合わせて作るもの!」といった大原則を忘れているからに他なりません。住まう場所が街中なのか?郊外なのか?海の近くか山の近くか?そうしたそれぞれの土地固有の条件に合わせて建築は建てられます。極論すると「土地が特定できなければそれにあった設計もイメージも絞りようがないのです。」言われてみれば当然ですがこれは変えようがありません。それなのにテーマ性もなしに家の見た目やインテリアを鑑賞することにばかり大きな時間を割いて、暮らしの基本となる肝心の敷地選びが一向にはかどらない方も多いのです。初めての家作りで不安なのは分かりますが、勉強は必ず方向性を決めて行なうべきです。家族の将来や老後のことも考えながら「自分はどんな街に住みたいのか?」ぜひ自分探しにこそ貴重な時間とお金を使ってほしいものです。自分はどこに住むのか?まだ見ぬご近所さんとどんな街をつくるのか?こうした暮らしの基本に気付かないと、いつまでも使い道のないイメージのサンプリングに明け暮れることになりかねません。そして多くの場合それにはきりがないのです。なんとなく住宅展示場を回って1年以上経つみなさん。まず土地を探してその土地でどんな暮らしが出来るのか?その可能性の検討にこそ時間を使って下さい。先ほどわたしのクライアントさんは間取りを決めるまでに半年近く掛かると書きました。それは自分達が思いもよらない土地の使いかたや、間取りを私が提案するからに他なりません。一見まったく異なる間取りでもよくよく見るとそれぞれに説得力があったりします。そうした豊かな可能性の中から自分たち家族にいちばんぴったりの方法を選んでほしいと思います。きっと充実感いっぱいの家作りになりますよ。


星置の家は建て込んだ住宅街の中にあり、南側にはまったく家が建っていない。(今後も調整池のために建ちようがない。)なので大胆に南側をガラス張りにして開放することができました。とうぜん同じ南側の敷地でも、向かいに建物が建つ場合とは考え方が異なります。


隣接する駐車場からどのように居間への視線流入を遮るかを考えていた新川の家の第三案。その後調査の結果、駐車場の利用率の低さからこうした視線の遮蔽それ自体が必要ないことが明らかになった。
自分たちにとって、いったいどの程度の面積が必要なのかが最後までクライアント本人にも判らなかった星置の家。多くの場合予算はそのままでどこまで大きく出来るかが話しの焦点となる。結果、予算節約のために、家の内装は全て省略することに。将来お金が貯まれば内装しましょうということになった結果がこの写真。こうした理由こそ大切。見た目が好きか嫌いかはむしろあまり重要ではなく、単なる個人の好み。しかしこうした説明もなしに上の写真を見せるからすぐ見た目のスタイルや印象の話しになりやすい。家作りに失敗したくないのなら、こうした写真の裏側にこそむしろ興味を向けてほしいと思います。 ちなみにそんな理由を知らない私の母は、「ところで工事はいつ終わるの?」でした。よりにもよって身内から~まあそんなもんです。はいっ!(笑)