北海道に限らず大人気の南側敷地(南側に道路がある条件の敷地)。ここ数年、宅地価格の上昇が著しい都市圏でも、まだそこまでではない郊外の宅地でも、宅地としての人気度は根強いものがあります。
端的に言えば・・日本人の多くは「南側敷地」が大好きといってよいでしょう。
その理由は意外にもシンプルで上のような配置案が容易に浮かぶからだと思います。
1:建物を北側に寄せることで明るい南側の土地が最大化できる。
加えてその前面が道路なのでさらにその幅員分も日当たりボーナスとして使える。
2:建物が道路から離れるので道路と家の間に緩衝空間として庭を取ればプライバシーが
守られ易い。
3:前面通りから見て「庭」、「家」の順に見えるので、住まいに対する日本人の
伝統的価値観にフィットし易い。
4:角地に次いで土地の評価(主に取引価格)が高い。
確かにその気落ちは分からなくもありませんが・・・道路から建物が奥に配置され易い南側敷地は、日当たりの良さもさることながら同時に駐車場やアプローチの除雪面積が最大化し易い敷地でもあります。
このお話しをすると例外なく驚かれるのですが・・そもそも北海道の内外を問わず、建築士の勉強では「氷点下の環境の建築」は学びません。降雪?積雪?除雪?堆雪?といった単語は氷点下の環境、すなわち寒冷地特有の単語ですから、基本となる建築設計の範疇には含まれません。
当の私も学生時代、製図室の外に深々と降り積もる雪景色を眺めながら、雪のない地域で書かれた教科書や巨匠たちの図面を眺めながら必死にトレース(模写)し模型化していました。意外にも雪を想定した計画ができないと道内では十分な設計などできないことを知ったのは勤め人になってからでした。
恥ずかしながら・・地域で設計者として働きながら・・その地域に相応しい設計が建築士の学びだけでは全く不十分なことを知りました。
当然ながら北海道は寒冷地ですからいくら建築士であっても再教育が必要です。北方型住宅の設計者としてこうした再教育を建築士に求めている理由はこんなところにあります。
何十年と・・雪国に住む私たちは除雪の大変さに悩まされてきました。多雪区域では戸建て住宅に住み続けられない理由の一つに除雪の大変さが上がります。
上の図のように駐車場&アプローチを確保するためにはせっかく南側に取った居間の窓の前にまで雪を積み上げねばいけません。道路の除雪の雪は道路境界上にうずたかく積み上げられ庭木を圧迫し1階の居間の窓から通りを見通すことはどんどん難しくなります。
冬こそ明るく暖かく過ごすことを意図して居間を南に配置したのに・・・
ここで少し視点を変えましょう。
現在は無落雪屋根が一般的になりました。理由は簡単で落雪型の屋根だと大量の重たい雪が落下して危険ですし、隣地に被害を及ぼす可能性も高いからです。親と同様、お隣さんは選べませんから屋根雪が隣地に飛ぶような家づくりをしてしまうと健全な近隣関係が築けません。そこで屋根に積もった雪はそっと触らず載せたままにする無落雪屋根が求められるようになったのです。
上の図は小さな二階の問題を指摘するために作りました。雪のある地域にもかかわらず雪のない地域の視点で考えられることの多かった時代の建物は・・1階の部屋を多めに取りがちなのです。繰り返しになりますが・・積雪がありますから1階の部屋を増やしても、窓は埋もれがちになります。
その結果・・2階に持って行ってもよいとされる部屋は子供部屋や納戸、押し入れのようなものになります。
結果的に1階は広く、2階が狭いアンバランスな面積案分の二階建てが増えるのです。当然ながら、1階の上に2階の壁が載るとは限りません。悪くすれば上の図のように二階の壁の下にはそれを支える柱も壁もほとんど取れない家が多くなります。
これでは地震に対して非常に脆い構造にしかなりませんし、二階の屋根雪の重みも充分に基礎に伝えることはできません。
1階の部屋数を減らし1階壁の上に2階壁が載るように総二階の間取りを目指して、雪の重さにも、地震にも強い家を作るべきです。
長年の刷り込みで・・何となく”いいな”という人が多い南側敷地ですが、実際には冬目線でしっかり検討し設計しないと、長所だと思っていたものの多くが・・実はそうではなかったということになります。
地域に相応しい住まいとして1988年から改良が重ねられてきた北方型住宅を推す理由がここにあります。
道路の雪を除雪車が積み上げれば通りは見えず、雪のない季節は通りからの視線が気になって広間からカーテンは閉めっぱなしになる。あれれ・・庭を楽しむとか居間に光を入れて明るく・・のはずじゃあなかったでしたっけ/笑
駐車場は道路に接続して設けるしかないので、玄関前に置けない場合は除雪箇所が増えてしまう。もちろん駐車場の雪も南側の居室の前に積み上げるしか雪の置き場所がない。
南側敷地が人気の理由が恐らくこれ・・明治期の庭と一体となった間取り。さすがに北海道の家に縁側は既にないが、縁側を取るとほぼ似た考え方の間取りとなる。余談ですが、サザエさんの家も非常に似た間取りです。
様々な家相学や主に当時の衛生上の観点から、南側の居室からトイレや浴室、台所は北側に離して配置される。当然ながら高齢者にとっては寝室からトイレもお風呂も遠い間取りで暮らすこととなる。
日本人の住宅取得年齢は35年ローンが支払える年齢から逆算して概ね30代半ば~40代半ばが多い。要はローン完済時で70~80歳。2020年代の平均寿命は85歳程度と考えれば、余命は概ね5年から15年程度。必ず準備必要です!
寝室と水廻りは隣り合ってないと苦労する。私の設計では寝室の隣に水廻りを設けることが多いのはそうした理由です。
北方型住宅では特定寝室(住まい手が使う主な寝室用途の部屋)と同じ階にトイレの設置を求めています。従来のように2階には寝室だけ、トイレは1階に下りないと使えない。という間取りは基本NGです。
最近採用例が増えている総二階型の間取りの一例。南側に設けたカーポート兼アプローチの中をトンネルのように潜って玄関に至る外部動線としています。
堆雪スペースは庭木が傷まないように宿根草のような草花を増やし植栽の上に堆雪可能な庭として場所を想定しておきます。
LDKは除雪&堆雪で視界と日当たりが奪われぬように二階に配置すします。そこに至る階段に関しては十分緩いものとして、普段の生活に負担にならない程度に階段の上り下りを日常に取り入れます。
2階が居間だと高齢化したら大変という・・意見をよく聞きますが、仮に14~15段の階段の上がり降りさえ難しくなったとしたら・・もう戸建てに住み続けること自体を考え直す時期に来ていると思います。
「発寒の家Ⅳ2023」
各部の動線や設置階、堆雪場所はこんな感じ。
1階のカーポート兼アプローチは北海道人にとって欠かせないBBQ&ジンギスカンスペースとしてもぜひご利用いただきたい。
高木を減らし降雪期には堆雪場所に変わる前庭。「新琴似の家2018」
道内で要望の多い、共働き&車二台分のカーポートを設けて、北海道の住まいのスタンダードを目指した「南幌まちなかの家2018」
外から見ると格子の中から室内はほとんど見えないが、室内から屋外は非常に良く見える。ここまでしないと、カーテンを開けて明るく伸び伸びと、住まい手は住んでくれない。
その一方で、室内の必要はないが、しっかり置き場所を作って上げないと景観や美観を損なうものにも十分な配慮が必要となります。
格子の奥は通りに対して見せたくないプロパンガスの置き場所。夏なら自転車置き場、冬なら除雪道具を仕舞う場所として大活躍します。
調理はガスで暖房給湯は灯油で・・そんな場合はボンベとタンクを道路(サービス動線)に近接させつつ見え難い工夫が大切です。
接地階同士で、一般的な南側間取りと北方型住宅を比較してみました。みなさんならどちらが北海道に適していると思いますか?
無落雪屋根(半年間重たい雪を載せっぱなしにする屋根)その状態で地震が起きた場合、構造的に合理的な設計ができていますか?
今までブログを読んで・・北方型住宅のルールを家づくりに取り入れてみたいと思うけど・・どうやって工務店さんや設計者さんに伝えればいいの? という方は上の技術解説書をお使いください。下記よりフリーダウンロードが可能です。
北方型住宅2020技術解説書
2018年にオープンした「南幌みどり野きた住まいるヴィレッジ」
札幌のベッドタウンとして今や人気の住宅街である南幌町では北方型住宅のルールを守って建てることを条件に様々なメリットが受けられるヴィレッジに多くの人が移住しています。
もちろん、ルールを適用せずに自由に建てられる街区もありますがみなさんはどちらがお好みですか?
こちらは、北方型住宅の最新仕様であるZERO(北方型住宅2020に総エネ設備等更なる環境性能を盛り込んだもの)です。
当事務所も紺野建設さんとコラボしてゼロカーボンヴィレッジに参加しています。
北方型住宅ZEROは全国一の性能を有する住宅仕様です。
今日はアカペラでマイケル・・いいすよ