2013年5月23日木曜日

最近の設計事情


実は2005年以降、住宅設計が大きく変わったことに気付く人って意外に少ないですよね~(笑)。ご存知耐震偽装で全国を騒がせた姉歯事件直後から、特に構造設計にはそりゃ~厳しい規制強化や綱紀粛正の嵐が吹き荒れ、実務を大きく変えました。事件の核心で大きく問題視されたのは、構造計算書の差し替えでした。一般的に特定の規模や階数を越えると法的に構造計算を求められますが、この構造計算書は膨大な枚数に上る事を知る人は少ないでしょう。簡単な建物でも300~500枚、大きなものになると数千枚になる場合もあります。当然、機械で印刷の最中に誤りを見つければ、そここで機械を止めて新旧の書類を差し替えるという必要性が生じます。ところがこの機能を悪用し実際には12本の鉄筋が必要な柱であるというページを8本の鉄筋でOKというページに差し替え、建物のあちこちで必用な鉄筋量を少しづつ落とすということを行っていたのでした。 特にこの部分を重視した当局により従来は途中で印刷を中止できた機能を改め、一度印刷を始めると最後まで止める事が出来ないようになりました。(実際にはトラブルが起きれば止まりますが、印刷物には全て印刷当日の日付や時刻が刷られるために、後から異なる日付の書類の差し替えは事実上不可能になります。)

 物事は一面的に見れば一件落着ですが、他方ではその影響は様々です。たとえば長期優良住宅は、国が奨めるこれからの住宅像を実践する家として、インセンティブ(補助金)や様々な優遇施策の対象となっていますが、基本的には全て構造計算が義務付けられています。簡単なものなら意匠設計者による簡易的(といってもかなりたいへんですが...)な方法で判定が出来ますが、大空間や3階以上の階を持つもの等は、最初から木造専門の構造設計者に委ねたほうが安心です。もちろん木造用の構造計算ソフトにも冒頭の改良?は加えられていますから途中変更は大きな労力を伴うことになります。一方、巨大なマンションのような建物の構造変更が難しいのは理解できても木造二階建ての間取り変更も同じように困難であることを理解できる建て主はまだ少ないのが実情ではないでしょうか、写真は「屯田の家」の長期関係と確認申請関係の提出物の写真ですが、奥のピンクのファイルの構造計算書は一冊約200枚、3冊を提出し1冊を事務所の控えとしますから、800枚を印刷せねばなりません。誠にお役所的といえばそれまでですが、私はむしろ今までが少し大らか過ぎたのでは?と最近思うようになりました。本来、しっかり設計し施工すれば50年は楽に使えるのが今の北海道の木造ですが、従来のように現場で簡単に間取りのアレンジが出来るような作り方は、結局後の建て主にとってもあまり良いこととはいえません。つい最近まで、住宅に設計の必要性を認める人はほんとうに少数派でした。私たち建築家も、構造や省エネルギーの専門家?というよりは、見栄えのする内装や外観デザインに取り組むデザイナーという印象でした。しかし2005年以降は住宅にも、構造、省エネルギー、長期の耐久性、メンテナンスの容易さ、高齢化対策、特に近年は地域産業や地元の作り手、生産者たちとの連携といった事柄こそ家づくりに欠かせない。という意識に一気にシフトしています。また3.11以降は災害やそれに伴うエネルギー途絶との兼ね合いから特に電力の生産方法を問い直す意識も高まっています。90年代の半ばから急速なITの進化によってもたらされたグローバル化は地域や国といった狭い視野の価値観を一旦は否定したかに見えましたが、むしろ現在はそうしたネットワークを使うことで、以前は漠然としていた家づくりの目的や大切さが広く理解されるようになって、結果としてはよかったと思います。しかし僅か数年でこれだけ広範な事柄を必要とするようになった家づくり。(きっと今後はさらに増えるのしょうね...笑)私の後の代の設計者のみなさんはきっともっともっとたいへんでしょう。 もちろん私も当分頑張りますけど!(笑)

今日はね...J.コルトレーンなんていかが?