2017年8月19日土曜日

帯広の家 断熱改修工事

北海道における木造の断熱手法は大別すると繊維系断熱材を用いた充填系とボード状断熱材を用いた外貼(張)り系の二つが伝統的である。主に前者は新住協を中心に工法の改良が進められ、後者はかつての北方圏住宅研究会や各メーカー系の勉強会がそれを担った。一時期は外貼り派VS充填派に分かれて厳しい批判の応酬を繰り返した時期もあったが、現在では充填と外貼りを併用して行う充填+付加断熱が主流であり、壁の中に断熱材を詰めること自体の良し悪しを論じた時代ははるか昔のこととなっている。
 
写真は1987年竣工の外張り断熱を用いた住宅の現況写真である。軸組みの外側に壁は50mmのXPSを屋根には野地板の外側に同じくXPSを100mm施工している。図面で見る限りシンプルに完結した外張り構造なのだが現実はかなり複雑だ。冒頭にも述べたように充填、外張り、それぞれの工法が長期に渡り改良を必要とした点は気密の確保だったからだ。
 
そもそも壁の内部を自由に通気させ徹底的に外気に開放することを目的に進化した在来木造をその本質的な目的に逆らって断熱しようとすれば隙間という隙間を徹底的に断熱充填した上で水蒸気移動に対する備えを固めるしかない。壁の中を充填断熱するということは力学的構造を断熱構造と併用することを意味しているから断熱構造が良くないと即座に構造も破壊してしまう。こうした理由から、充填断熱を極めた工務店の技とは緻密で丁寧な「先張りシート」であり、家中に無数に存在する躯体内の気流を止める「気流止め」施工であった。後に剛床の普及(床先行工法)によって気流止めが新築においてはほぼ不要になったのは意外な事実であった。

一方外張り断熱は構造内を断熱層として使うことなく構造外のレイヤー(層)に熱橋を気にせず断熱できる点が、特に設計者や研究者に受けてより合理的でスマートな断熱工法だと信じられていた。しかし実態は充填断熱と同じように 初期には気密確保に苦労する。軸組みの外側にボード状断熱材を張ったのみではボード同士のジョイントから空気漏れを起こすのは必然であった。こうした致命的な欠陥も不思議なことに軸組みの外側に張る耐力面材の普及と共に一気に解決に向う。外張り断熱もまた構造の進化に助けられて完成度を高めたのだ。
写真は柱外の耐力面材がまだ普及していなかった時代の外張り断熱。通気層にタイベック(防風+透湿+防水シート)もないので青い断熱材が見える。もちろん断熱材同士の継ぎ目からは外気が大量に壁内に入ってくる。それを対症的に解決するために本来外張りには不要なはずの気流止めGWを外壁上部より押し込んでいる。当時の大工は図面の上では明解に解決済みの事柄がまったく現場で解決できていないことに驚き悩んだと思う。

紫外線に極端に弱い性質を持つXPSだが日光の当たらない室内側から確認したところでは劣化はほとんど見当たらない。しかしこの建物本来の断熱性能を発揮させるところまで直すとなると、効果的に気密を上げた上で更なる断熱を行うしか方法はないということになる。
 
今までは充填断熱主体の処方箋を研究してきたが帯広の家では低気密外張り断熱の家の断熱リフォームに挑戦します。現場は9月よりスタート、工期は概ね1.5ヶ月。チーム帯広始動します。
 
女性2人組M2Mなんていかが、曲調は80年代っぽくていいね!

西岡の家 設備改修工事

北海道が進める優良な性能向上リフォームのブランド「R住宅」として1970年代の建物を断熱的、構造的に徹底してリフォームした「西岡の家」もあっという間に8年の歳月が経ちました。その間に庭の緑は増え、近所でも評判の住いになりました。
 
しかし竣工後2年目にして起こった東日本大震災はオール電化王国と呼ばれた北海道の景色を一変させました。度重なる値上げや深夜電力の新規契約におけるメリットの消失はオール電化という考え方自体を揺るがせ、過去に何度も経験したように現在は急速に電化離れが進んでいます。かつて石炭から石油へ、そしてガスから電気へと移り変わってきた北海道の住まいのエネルギー。ようやくエネルギーの種類に振り回される時代を卒業し、最近は若い世代を中心に「断熱」に積極的に投資する視点が広がっています。
 
「北海道R住宅」とは http://hokkaido-r.jp/ 
 
2009年竣工の「西岡の家」も当時は一般的だったオール電化として設計され、給湯は電気温水器、暖房は蓄熱式暖房機と電気式オイルヒーターの併用というシステムです。震災以前は平均的な光熱費でしたが、その後の値上げにより今では当初の3割弱の上昇。さすがにこれでは家計の維持は難しく今回の暖房+給湯熱源交換と相成りました。
過去ログ「西岡の家」 http://ako-re.blogspot.jp/2009/08/blog-post.html
 
断熱性能自体が1999年基準(Q値1.6)程度の「西岡の家」では300mm断熱でよく用いているLPG熱源では割高になります。そこで最も価格的にこなれた灯油熱源で給湯と暖房を行うことにしました。なんだか灯油?なんて聞くと時代に逆行するような気もしますが、現在における石油機器の進化はめざましく、断熱のポテンシャルが高ければ充分に光熱費をコストダウンできます。そこで、南側に吹き抜けのある西岡の家では小さな輻射型FF式ストーブをLDKに設置し主にストーブ1台で全館を暖房しようと考えました。
 
給湯はコンベンショナルな壁掛け式の給湯専用ボイラーに変更してしまいます。
 
轢きたての外壁はたっぷり塗料を含んで8年経っても多少色抜けしたくらい。しかしさすがに木製サッシはそろそろ限界。当時の塗料はアメリカ製のオリンピックステイン。しかし今では同じ色の入手が困難に。そこで塗り重ねても影響が少ない塗料を工夫して再塗装します。
 
拡大するとかなり色見が褪せているのがわかる。
 
こちらは下屋部分のオーバーフロー。2009年当時の0勾配シート防水にはまだなかった対策パーツが出来たのでほとんど壁を伝わないように改良する予定。
 
正面の公園から見た「西岡の家」。建物とは別に庭木の剪定も計画中。
 
今日はシシド.カフカ・・かっこいい!
 

野幌の家 基礎工事

基礎工事が始まった「野幌の家」、銭函の家から数えて24棟目の300mm断熱の家です。敷地の周囲には資材置き場が確保できるので助かっています。
 
 
打ち継ぎ部分からの漏水を防ぐために止水板をセットしました。パッシブ換気は湿気らない床下の確保が大切ですから、水はけのよくない敷地の場合は工夫が必要になります。

基礎の下には砕石層を設けて透水性を妨げないようにしておきます。

周囲を基礎で囲まれた島の部分も極力、透水性を妨げぬように土を砂利に置き換えて水はけを改良しておきます。

こちらは道路保護用の鋼板マット。敷地の一部は雨水が開渠(側溝)なのでその保護のために敷き込みました。

しっかり敷き込まれた砂利層。


この後、第三者試験を受けてまずはベースを打設します。

西野まちなかの家 外装下地工事その2







外装を貼り始める前には色々と下準備や段取りを終えねばなりません。上の写真は軒先の板金の納め。従来のように全く軒の出がない陸屋根ではなくて20cm軒を出して、そのかわり破風は付けないで納めてゆきます。奥に見えるのは通気部材のイーブスベンツ。屋根面は105mmの通気層、壁面は18mmの通気層それらを上手に交通整理して通気工法を完成させます。
 
こちらはパッシブ換気の塔屋の腰水切り。シート防水を巻き上げた上から施工ししっかりと防水テープで止水します。
 
こちらは南側の庇。出は1m以上あります。300mm断熱で南面に大きな開口部を取ろうとすると、日射遮蔽の工夫がどんどん必要になってきます。1階が居間で南向きの吹き抜けの上下に大窓のある「西野まちなかの家」にとって高所の庇は欠かせません。1階の掃きだし窓の上にはオーニングを設けて上下で日射遮蔽を行います。
 
こちらは窓水切りの下地。サッシは一般的によく行われているように4辺のツバを壁より出して納めるよりも断熱厚さの中心に近づけて設けるとより性能を引き出すことが出来ます。別の見方をすると、付加断熱が当たり前になると自然と壁の厚みが増すので窓の取り付け位置にも選択肢が増えます。
 
窓の周囲はウレタンを充填して断熱補強をしておきます。外装材を貼ると丁度、サッシの外枠だけが見えなくなり障子のみが残見える様に納めます。
 
タイベックの下に石膏ボードを貼っているので壁の貫通部分に通した管(ケーシング)にガスケットを使うとピシッ!と貼れます。よくふわふわのタイベックの上からガスケットを被せ周囲のテーピングがぜんぜんくっついていない現場がありますが、私的には繊維系の付加断熱の外側には一度平面を作ることをお勧めします。窓廻りのタイベックの折り返しやテーピング、上記のような貫通部分の処理等々・・・シート類の下にしっかりした平面があると助かることばかりです。外壁の通気層も断熱材が膨れないのでもの凄くよく効きます。
 
ケーシングのツバは出来れば3cm以上は出してほしい。こんな風にガスケットがしっかり圧着して簡単に気密が出ます。
 
 
こちらはエコジョーズの排気トップの室内側。燃料供給(LPG)をしてくれるガス屋さんの仕事(北海道では単に燃料のみを扱うという意味の純粋な燃料屋さんは少ない。燃料供給に加えてガス機器を自社で貸与するケースも多いので、設備屋さんでもあります。そんな訳でガス屋さんの無知で気密が取れない、断熱が欠損した・・なんて言われないように担当者が現場について施工してくれます。
 
こちらは外部側。アクリルテープを細かく切ってタイベックに貼り付けて気密を取っているところ。現場を預かるM所長と「性能的には充分だけど、見た目が見劣りするので建築側でガスケットを支給するのか検討中(笑)。