しかし被害を免れた建物の中には当時の華やかな様式や海を越えて入ってきた舶来の香りを感じさせるものも少なくありません。明治から大正、昭和初期までは、安価な民家といえど、ひとつひとつ手仕事が当たり前、西洋趣味を気取ってはいても、横長の引き違い窓や、5寸の緩やかな勾配の屋根、横張りした南京下見板や漆喰にモルタルといった左官仕事、その後大いに北海道中に広がった赤と緑のトタン屋根etc...、ちょっとレトロな中にしっかりお醤油の味も忘れない和洋折衷の素適な建物たち。そんな岩内の空気を精一杯大切にしようと、計画に励んだのでした。大火で古い街並みは失われても、札幌に溢れる新興住宅街っぽさは持ち込みたくありませんでした。同時に当時から頻繁に使われ始めたデザイナーズっぽさも嫌でした。歴史ある街に建てるにはどちらもあまりにも失礼な気がしたからです。さんざん考えた末に大正や昭和のフレーバーを再解釈して現代的にアレンジすることにしました。写真は、雨上がりに足場を外した直後。ちょっと懐かしい感じがしませんか~?(笑)
全体的にはかなり懐かしかったりする。(笑)破風は30度転ばして厚さは180mm。
外観はレトロなんだけれど、構造は強靭に。強風地域の岩内の風でもびくともしないように柱量と梁量を倍に増やし、合板で補強
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夕暮れになるとあまりにきれいな夕焼け。まさに昭和の子供時代。ほんとうに夕焼け小焼けで日が暮れる。
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妻よ当時からありがとう!お昼は現場で棟梁たちと。
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外壁のジョリパット塗装の直前、樹脂モルタルメッシュ入りの左官が終わったところ。
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まったく同じ頃、札幌では宮の沢の家が同じような工程を迎えていました。宮の沢は私が育った街です。小学校2年生のときに、隣町の手稲本町から引っ越してきました。当時流行のハウスメーカーの住宅が運よく買えたからです。それからあっという間に40年、しかし大正や昭和初期の建物のような手仕事のよさは既になく、今ではこれまた中途半端な規格住宅に建替えられていたり、各社の個性というか癖が不協和音のように響く街並みになってしまいました。新和風に北米風、北欧風にカナディアン調といったように、まあ住まい手の趣味なのでしょうが何でもありのテーマパークのようでもあります。そんな中すでに子供達が独立した世帯も多く、今となっては「いいところ」ながら活気は薄れ寂しさも漂っていました。そこで岩内とは正反対の提案を思いつきました。今までになかったもの。そう、なになに風というのを徹底的になくして近代的にしたいと思いました。使う色を極力減らす。かたちは極力単純にして、数学的な比例の組み合わせで建物のデザインを考える。工業的な精度の高い印象を与える。歴史的なものには背を向けて原理的で工業的な印象を重視しました。
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