2009年12月3日木曜日

銭函の家 内装工事その二

銭函の家の内装工事も仕上げ工程に向けて順調です。我らが現場のS棟梁は、親子鷹。そう、お父さんともども毎日現場で頑張っていただいています。先月竣功した西岡の家のS棟梁も同じ親子鷹、おまけにイニシャルも同じです。今年はSさんにとてもおせわになる年です。でもなんだかいいと思いませんか~(笑)、私も将来息子と仕事がしてみたいものです。そのためにも「建築家がそばにいてくれてよかった」と言われるように日々精進したいと思います。さて本日の監理のテーマは「見切りの確認」いつものように一緒にお付き合い下さい。(笑)

見切り:ものとものとがぶつかるところの処理。理想はそうした工夫なしで、硬いものと柔らかいもの、天井と壁のように面として異なるものがすっきり、さも何事もなかったように納まる(出来上がる)ことが理想です。しかし実際には、暖かい質感を持つ手作業の塗り壁と薄い塗り厚のペンキの天井の取り合いとか、壁の珪藻土と床のフローリングの境界とか、見切る工夫を事前にしっかりしておかないと出来栄えに大きく影響してきます。そこでそうした部分をみっちり監理するのです。階段は下塗り状態、段板は、ワックスで木地仕上げとするので、下地の白ペンキがはみ出る事は当然NGです。

アルミの見切りを床と壁の間に用いてアルミの厚さ分を珪藻土塗り壁の塗り厚さの定規(基準)とします。部屋の隅をホウキで掃いたり、掃除機を掛けたりしてもこの僅かに壁より飛び出したアルミがガードになって壁がポロポロ崩れるのを防ぎます。

壁は塗り厚のある珪藻土です。当然天井まで塗り上げると、厚み分僅かに天井を塗ることになります。そこで天井を壁から僅かに(今回は1.2cm)離して(目透かして)納めます。写真はその下地となる材料の取り合いです。1:天井、2:南壁面、3:西壁面の3面が取り合う入り隅(イリズミ)は難しいところです。出来上がりは壁の珪藻土が天井面の中にすーっと吸い込まれるように見えます。

本日の銭函の眺め。空は鉛色、冬の景色の到来です。


壁のボードを打つS棟梁、お父さんは1階担当です。塗り壁の下地ということで、釘が起きない(後から釘頭が飛び出さないように)ように、ボードビスを用いています。釘は打ち込むもの、ビスとはねじ込むものを言います。


本日の外気温は4℃、昼間も冷えます。


床の材料の断面が見えます。上より15mm厚のニレフローリング、24mm厚の構造用合板、道産カラマツ集成材、左に見える金物は構造的に伝統的な継ぎ手、仕口によるものではなくて金物接合であることを示しています。


壁の厚さは、最終的には43cm、開口部は外壁面より室内側に入って納められます。通常は開口部(サッシュ)が外壁面より外に出るいわゆるサッシュ勝ち納めが北海道では一般的です。しかし耐久性や、外観を彫りの深い印象的なイメージにまとめるためにあえて壁勝ち納めといたしました。


北国の木造の外壁構造の特徴は通気層を徹底するところでしょう。冬場室内で発生する湿気は室内から室外に向かいます。そこで室内から見て最外層部に空気の通り道を設け、万が一壁内に湿気がこもっても、逃げ道を作る工夫が必要になります。問題はどこから外気を壁の表層に入れるかですが、今回はこの壁勝ち収めを利用して上の写真のように窓のすぐ上の黒いベンチレーターから安定して空気を導入しています。材料はイーブスベンツ。本来は陸屋根の通気や小屋裏換気に用いる部材ですがそれを応用してすっきりさせました。

室内は、大工さん3人の体温発熱とコンプレッサー、作業灯の発熱量で現在15℃です。この原稿を書いていて気付いたのですが、300mm以上断熱をすると結果的にこのような気温を維持することが可能だとすると、今まで冬期現場の困りごとであった、低温化での仕上げ作業が圧倒的に楽になります。今の時期、通常の断熱の現場の室内は10℃にもなりません。その中でペンキを塗ったり、塗り壁をしたりは、ほんとうにたいへんです。まず乾かないし、品質も安定しません。湿式工法(工法に水を用いるもの。日本の伝統的なものはこれがほとんど。)は、こうして時期を無視した使い方のおかげで乾式といわれる水を用いずに溶剤を主にしたものに置き換わってゆきました。出来上がりの良い建築をお望みならば、春に着工して秋前に完成が理想ですが、断熱の考え方がもう一つ進むと、冬場でも漆喰や塗り壁が安定したよい品質で出来るようになるかもしれません。


冬場、北西の小樽市街方向から吹く風によって東側には大きな雪庇(セッピ)が張り出します。その方向は同時に眼下に広がる畑とその向こうに続く石狩湾を望むことから当初より窓を計画していました。特に暖気で寒さが緩んだ頃、屋根の雪庇が垂直に落下して下の屋根を壊したりすることがままありますよね?そこで子屋根は60度を越える勾配として、レンジフードの排気も軒下に全て隠すことにいたしました。


軒下に二つ穴が見えるのがレンジフードの排気と給気口です。気密住宅の場合は室内の気圧変化を最小限に抑えるためにこうした同時給気排気式のものをお勧めします。まだまだ排気専用タイプが多いですが、調理時に壁の給気口から冷気が流入して寒さを感じたりとあまりお勧めできません。


これくらいの高さが一番怖さを感じますね~。雪庇はこの角度で屋根に当たり滑って地面に落下するというわけです。


この建物のもう一つの心臓部、それは北海道で開発された技術であるパッシブ換気(高気密断熱建物専用自然換気)を改良して用いている点です。写真はその排気口。壁から飛び出さず十分に薄いことを確認します。この方法は、外部の気温や気圧の影響を十分取り去った室内(高断熱気密建物の室内)においては、煙突効果の応用で自然換気できるというものです。従って機械による換気は必要なくなります。(全国の建物がそうではないので、法律では機械換気が義務付けられています。)ほんとうにすばらしい発見だと思いませんか?

この排気口を開発した人も北海道の方です。極力機械に頼ることなく、自然の法則を応用して知らずに快適で燃費の良い暮らしがこれからは求められるとおもっています。本日も最後までお付き合いありがとうございました。