南あいの里の現場で建て方が始まりました。基礎の上に土台を敷き、柱を立て梁を渡してゆきます。私の設計では胴差シ(2階の外壁周りの梁)は通常の3寸5分(10.5cm)ではなくて7寸(21cm)が基本です。計算上は前者で十分ですが、建築は長く使うものですから梁や柱にはゆとりある大きなものを使うように師匠に教わりました。たいへんなのは大工さんです。同じ長さの梁でも通常の倍の重さになりますからみんなで息を合わせて持ち上げて、掛矢(かけや)と呼ばれる木製のハンマーでほぞ穴にほぞを叩き込んでゆきます。見ての通りたいへんな重労働です。おまけに上に乗る小屋組みも特製の木造トラスですから大工さんにはほんとうにたいへんな現場です。そんな南あいの里の現場は長年お世話になっているU棟梁とお弟子さんたちにつくってもらうことになりました。以前より弊社設計の建物を手掛けていただいている丸稲武田建設の一番手棟梁として数々の難工事を一緒に乗り越えてきました。気取らない岩手弁とどんなに忙しくても手きざみ(大工自らが墨付けを行い骨組みの設計と加工を請け負うこと)を嫌がらない人柄は大工さんの中でも最近ではずいぶん少なくなりました。今回は長期優良住宅の条件として25%の強度UPや構造計算を優先せねばならないことから、構造材の設計加工はプレカット工場にお願いしましたが、本人はそれが少し残念な様子。確かに社会の流れは分かりますが大工の腕前も落ちないような上手い方法が無いものでしょうか?(笑)
7尺の梁だと3mものでも一人で上げることは難しいです。
梁の「番手」と柱の「番手」を合わせて掛矢(かけや)で叩き込みます。きゅっ!と音がしてほぞがほぞ穴へ吸い込まれます。このとき素直に入りすぎても、硬すぎても棟梁の怒声が飛びます。ほぞは穴に対して鋸目一本分太く作り位置合わせのときは先端が入りやすいようにほぞの先端に4面テーパーが施してあります。要は釘なしでも抜くのに難儀するようにかつ梁のほぞ穴を割らないように絶妙なしまり具合で梁の上に柱が立つこと。これを確認するための音がほぞとほぞ穴が摩擦で発する「きゅっ!」という音なのです。
7寸の胴差しの上に大工が乗り90度方向に7寸の梁を落とし込んでゆきます。
この写真を見て「ほう~」と目を細める人はかなりの木造マニアですね~。(笑)2階の梁(水平材)が太いこと、建物の四隅の柱が一本物で2階まであること、さらにそれが通常の2倍の大きさの柱であること。またそうした大きな材を使うことで接合部の強度に余裕が出ること(通常の10.5cm角の柱を二方向から加工させると純粋に柱として残るのは9cm角程度、これが3方向なら7.5cm×9cm、4方向なら7.5cm角しか柱の断面として残らないが、元の柱を10.5cm×21cmとすれば加工後も大きな断面が残せます。)等が木造には大切です。最近は継ぎ手や仕口に金物が多用され、その効能ばかり注目されますが、金物を取り付ける際の加工削除による材料の断面欠損も同じように注意が必要です。大きな力を負担できる金物を付けたなら、同じように材料にもその力を受け止められる余裕を見てほしいものです。
棟梁との一作目は2005年、190坪オーバーのグループホームでした。5軒分の量の材木を全て手きざみで加工していただいた思い出深い仕事です。
二作目は同年の星置の家。
第三作目は同じくグループホームの姉妹館
第四作目は新川の家でした。
新川の家の手書きの手板を前に打ち合わせ。
敷地が狭く隣地からユニッククレーンの応援を借りて建て方を行った新川の家。