2011年5月31日火曜日

空に開く

外壁に窓のない家を計画しています。もちろん全ての窓がないわけではなく壁に窓を極力つけないという考えでつくる家です。ほとんどの光を天井面や内部に設けた中庭から採ります。

通りに対して閉じた表情としながら、けして無愛想ではない。そんな材料で建物全体をつくりたいと考えています。なんだか抽象的で(笑)...閉じているのに無愛想ではないとはどんな感じなのか?今日は少し意匠のお話をしたいと思います。(私は本来、意匠屋ですから..笑)
角地から見た上の写真のように建物に窓がないと、外観上の印象は家というより、壁とか背景のような印象になります。精度の高い板金や金属パネルのような表現も街並みに一風変わった印象を与えるでしょうが、今回はさらに自然で柔らかな材料でつくれないものか?とあれこれ考えています。

精度よく収まるような板金も貼栄えがしてよいのですがむしろイメージとしては今回はいまいち違うように思います。

むしろ窓がなくても、落ち着いた街の風景として長い間、飽きずに愛されるような材料をいろいろ考えています。写真は小樽の石倉倉庫ですが、一見地味な軟石がなんとも味わい深いと思いませんか?(笑)、時代を経ても味わいが増して、言われないと気付かないくらい控えめなところなんてほんとうに良いです。まあ最近は当時の工法が使えないのでなかなか難しいのですが。

窓のないことが無愛想にはならないという見本。なんだかユーモラスでかわいげさえある。(笑)

外側からはうかがい知れない板塀に囲まれた佇まい。通りと敷地をやわらかく遮断して内部に豊かな空間をつくってきた。まだ完全に工業化されていない素材は表情が豊かでなにより時の流れの中で色褪せにくい。写真は北海製罐㈱の「罐友倶楽部」、古いのに素敵!と思えることが陳腐化していない証拠。たとえば現在の外壁の中で100年後もこうした味わいが感じれるものはどれほどあるだろう。なによりも当時の設計者に感謝したい。


建物がのっぺりとしないように外部から内部の部屋の存在をわずかに感じさせたい。部屋ごとに専用の屋根と天窓を持つ不思議な外観。さあてまたまた幸せな悩みの毎日が始まります。

今日の曲は、ドンヘンリーなんていかがでしょう?

2011年5月23日月曜日

畑の季節

今年はまだなんだか寒いですね~。しかし畑に苗を植える季節がやって来ました。毎年大活躍する小型のカルチベータ(耕運機)。おもちゃのような小ささながらパワーは十分。あっという間に耕せます。実は3週間前に石灰と米ぬかを撒いて軽く耕してあったものを植え付け直前にもう一度さらさらに耕します。特に粘土質な私の畑はこの一手間が欠かせません。あくまで段取り8分、こんなところも設計に実によく似ています。(笑)

みるみる耕して行きます。耕された土は空気を含みさらさらになります。

次男、三男とジャガイモの種芋を切っているところ。病気や手入れにうるさくないメークイン種が毎年の定番です。目を残して二三個に切り分けます。

切った断面には草木灰を付けてっと!

連作障害が気になるトマトは土換えをして支柱を立てて結びます。はつか大根やサラダ菜の種も蒔いておきます。

特にハーブの中には北海道の厳しい冬を越えるものが少なくありません。写真はオレガノ。ピザやパスタによく合います。意外にお勧めなのはハーブティー。ミントと一緒に沸騰したお湯に入れて3分、独特の芳香がよく合います。

こちらはスペアミント。トマトや葉物の近くに植えて防虫草にも使います。濃く入れた紅茶に入れて中東っぽい香りと雰囲気を楽しみながら一風変わったティータイムはいかがでしょう?(笑)

大きな葉は、ヒトビロ(アイヌねぎ)周りの細い草は全てにらです。家の裏に自生してこの季節になるとどこからともなく生えてきます。特に手入れしなくても自生する野菜としてこの他にも、蕗(ふき)、ウド、アスパラ、三つ葉、ミョウガ、赤シソ、青シソ、などがあります。不思議なことにこうした野菜は毎年自然と生えてくるので、お店で買うことがこれからの季節は少なくなります。家庭菜園は、ほんとに小さな空地があれば始められますし、ベランダや風除室もよい畑になります。ほんの少しの手間で安心安全な野菜がいつでも手に入る経験はぜひみなさんにお勧めしたいものです。(笑)クライアントさんは今年の豊作をお楽しみに。

素敵な日曜日をありがとう!
土いじり、それは日曜日よりの使者。いい曲です。


2011年5月19日木曜日

調査研究発表会

昨日は旭川に行きました。目的は北方建築総合研究所の調査研究発表会に出席するためです。このブログで何度も取り上げているように、環境的で省エネ性能の高い北海道の家は、道内各地に点在する研究機関がその基本となる要素技術の研究を担っています。 建築は総合的な成果物ですから、勘や経験ばかりで作るわけには行きません。構造や熱、工法やエネルギー、コスト等々、現在の社会が求める事柄をバランスよく網羅する見識が設計者には必要ですし、たえず新たな知見に触れることに貪欲でありたいものです。

床下暖房の研究や最近注目を集めるヒートポンプの上手な使い方、太陽熱エネルギーの利用方法、開口部の最新事情、午後からは研究員がEUの住宅事情を視察してきた報告会と盛りだくさんの内容です。しかしこうした知識の見本市に建築家の出席が少ないのがとても残念でした。むしろ工務店のみなさんの積極的な参加が目立ちました。このブログをお読みの若い設計者の方々にお願いしたいのは、こうした地域の財産を大切にしてほしいということです。そしてなにより学びに投資する姿勢を忘れないでほしいと思います。

12年前に竣工した北方建築総合研究所の大アトリウム。向かって右側のブロック壁の向こうが実験棟、左側の階段が研究員のいる研究棟。機械動力に頼らないことをコンセプトにした設計思想が貫かれている。庇による日射遮蔽や吹き抜けや大きなガラス面による照明の節約、氷や雪の蓄熱冷房、この施設全体がパッシブ換気等々、見所に事欠かない。旭川にお出かけの際はぜひ見学によってみてはいかがでしょう?

12年前の水準でも建物の断熱性を示すQ値は1.5W/m2kとのこと。北海道の建築ノウハウの聖地です。
詳しくは研究所HPまで http://www.hri.pref.hokkaido.jp/

発表会の最後に研究科長の福島さんが挨拶され「私たちの研究所はみなさんの研究所です。どうぞ使ってください。よろしくお願いします。」と深々とお辞儀をされたのが印象的だった。

今日の曲は ブルースホーンズビー 

2011年5月15日日曜日

お花見

私の住む発寒は、ものづくりの街です。木工場や建築関連の部品を作る工房に各工種の事業所が多く皆、普段から忙しく働いています。建築業界に土曜日はありませんから日曜日は唯一のお休み。家族サービスの日です。そんな晴れた5月の第二日曜日は、恒例の町内会主催、大花見大会です。毎年300~400人の人たちが近くの公園に集まります。地区委員のお母さんや青年部や婦人部のみなさんに商店街や有志一同が集まり朝からジンギスカンの準備をします。昔はもっと町内の結び付きも強く運動会や各種のイベントがたくさんあったそうです。10年前にこの街に移ってきたときにも、町内会の宣伝カーが朝からお花見の案内を流すのを見てびっくりしましたが、今ではむしろ毎年の楽しみになりました。

300人分のお肉を焼くお母さんたち。札幌なのでジンギスカンのお肉は生肉を焼き、たれは後からかけます。実は北海道のジンギスカンも地域性があってなかなか興味深いものです。旭川出身の妻は、滝川の松尾ジンギスカンの流れをくんで漬け込みの肉を野菜と一緒に焼くのが好きですが、私はやはり肉とたれは別が多いのです。余談ですが小樽のジンギスカンもお肉とたれは別ですがたれの味が甘みの少ないあっさりしたものに変わります。薬味として南蛮やゴマを使うのも札幌風にはない特徴です。

毎年恒例の町内会専属バンドによる生演奏。サウンドはベンチャーズに加山雄三。エレキサウンドが昭和を彷彿とさせる。でもリーダー曰く:最近はうちらも高齢化で~(笑)。まあそんなこといわないで今日はみんなで「若大将~っ!」。

結婚して街を出た娘たちや息子たちがこの日ばかりは子供を連れて実家に帰ってきます。会場は大賑わい。食べるのに飽きた子供たちはさっさと遊具のある方へみんな仲良く走ってゆきます。町内会長のあいさつは、「みなさん!今年も一緒にお花見ができましたことに感謝申し上げます。」まことにそうです。

お昼頃になると、さすがにお父さんたちも酔っ払い。よい気分で家路に着きます。でも町内会の役員さんたちはこれからが後片付け。一杯やるのは反省会を兼ねて最後になります。今年もほんとうにごくろうさまです。

今日は日本中にエレキブームを巻き起こし、おとーさん達の永遠のアイドルになったベンチャーズをご紹介いたします。


おっと若大将を忘れちゃいけない!今でも最高にかっこいい!

ブラックサンドビーチ 加山雄三





2011年5月3日火曜日

模型作り

ゴールデンウイーク、皆様いかがお過ごしでしょうか?そんな中、私は今日も楽しく仕事です。(笑)好きなことを生業に選んだのだから、今日のように世間が休みで、どこからも電話のこない日は仕事に没頭できるのです。没頭といっても、素敵な音楽を聞きながら、暖かく土の香りの混じった外の空気をかぎながら、図面に描いた二次元を三次元にしてゆきます。以前にも紹介しましたがこの模型作りという作業は設計には欠かせません。扱うものが空間である以上、図面には勘違いや誤りが潜んでいます。そこで描いた図面をもとに矛盾がないかどうか立体化してみるのです。実際の形にしてみることで(私たちの言葉で言うとスタディーしてみることで)、「ここは難しそうだぞ。」とか、「もっとシンプルにできる。」とか、それこそ模型がたくさんのことを教えて(スタディーさせて)くれるというわけです。そうやってフィードバックを行いながらまたは確認を行いながら図面の精度を上げてゆくのです。また模型を作る目的のもう一つの意味は、クライアントに一目瞭然に計画を理解してもらうためです。どうしても図面のみだと、頭の中で立体化するには限界があります。それは図面では同時にすべての事柄を表現できないからです。空間がわからないとクライアントは不安になり、それが進むと判断不能に陥ってしまいます。せっかく楽しい家づくりが、よくわからないために楽しめないのは、たいへん残念なことですよね。(笑)私たち建築家の用いるプレゼン(提案)の技術は難しいことを簡単に説明するために使います。自らが満足することよりもクライアントの不安を取り除き全体イメージを共有することのほうが、さまざまな新しいチャレンジが可能になります。クライアントが設計を楽しみ始めると意識が守りから攻めに変わります。それこそものづくりにとって、もっともよい環境だと思います。

現在計画中のスタディー模型。愛用のベニアはカッターマットの代わり。

特に地形に高低がある場合や、床の高さが各所で違うような場合はこのように模型化してから、できることと難しいことを説明します。

よく道路から見ると3階、敷地内から見ると2階~。みたいな表現をしますよね~?分かったようで分からない、一見難しい事柄も模型だと簡単に説明できます。

今日は、尊敬するMr.Bigのギタリスト、ポールギルバートと同じくベースのビリーシーンの素敵なユニゾンをぜひお聞きください。設計がもっと上手くなってこんな風に自由自在になりたいものです。


2011年4月21日木曜日

設計競技に参加しませんか!

 本日は、設計者の技量を競う競技会(設計コンペ)のご案内です。

3/11の東日本大震災は、私たちの既成概念を根本から揺さぶる大惨事になりました。同時に発生した福島第一原発の放射能漏れ事故は一旦は収束の兆しが見えたかに思えましたが、時を経るにつれ25年前のチェルノブイリに並ぶ事態となっています。また現地の状況がさらに鮮明になるにつれ、地震とはまったく異なる津波被害の恐ろしさも広く知られるようになってきました。2011年4/21現時、被災地ではようやく仮設住宅の建設が本格化し、一月以上に及んだ避難所生活に一筋の光が見え始めています。そんな中、私の所属する日本建築家協会北海道支部(以下:支部)と外断熱工法を扱う㈱テスクとのダブル主催で設計コンペを行うことが決まりました。日本全国に自粛ムードと風評被害が渦巻く今こそ、設計者の職能による社会貢献を目指し、支部の公式な事業として、建築家仲間たちと一緒に、精一杯コンペを盛り上げたいと思っています。このブログをお読みの方で、北海道在住の建築設計に携わる方はぜひチャレンジしてみてください。

詳しくは 公式ブログまで

第3回 JIA・TSCチャレンジ設計コンペ  http://jiatsc2011.blogspot.com/2011/04/jiatsc.html


■ちなみに後援団体は非常に豪華です!応募をお待ちしています。

北 海 道

札幌商工会議所

財団法人 北海道建築指導センター

社団法人 日本建築学会北海道支部

社団法人 北海道建築士会

社団法人 北海道建築士事務所協会

社団法人 北海道建築技術協会

社団法人 インテリア産業協会北海道支部

北海道設備設計事務所協会

社団法人 日本建築積算協会北海道支部

社団法人日本構造技術者協会北海道支部

北海道インテリアプランナー協会

北海道インテリアコーディネーター協会

新建築家技術者集団

北海道デザイン協議会

株式会社 札促社

株式会社 北海道建設新聞社

株式会社 北海道住宅通信社

2011年4月9日土曜日

20110304セミナー御礼 その三

3:工法、コスト編

さていよいよ今日が第三部、結びとなります。
南あいの里、菊水ともに、北海道の標準化工法である在来軸組み構造にマッチングのよい高断熱工法をいろいろと検討するところから、スタートしました。今回のように新しい試みに挑戦するためには、一般仕様は通用しません。たくさんの選択肢から費用対効果最大の工法を見つけ出すことが実はなかなか骨の折れる仕事でもありました。もちろんお分かりとは思いますが、断熱の仕様や窓の仕様、その納まりといった事柄に一般仕様を選択すれば、設計者は、間取りやデザインといった従来の得意分野の仕事に専念できますが、燃費や暖房に頼り過ぎない穏やかな室内気候、地産地消、木質バイオマスエネルギーの導入、バランスのよいコスト、費用対効果を含めたこれからの設計思想といった見えない部分まで欲張ってデザインしようとすれば、残念ながら私という一建築家のキャパシティーを大きく超えてしまいます。まさにチーム編成で設計に当たる意味はここにありまして、各専門家が現場の実践を通して見つけた貴重な事柄を私がみなさんに発信できるのも、すべてチームのおかげなのです。


さまざまな断熱材の使用を検討した結果、積水化学工業が開発した、フェノールフォームを用いることで、目指す費用対効果が得られることが、分かってきました。生産とコストシュミレーションを担当した、武田社長は、断熱材の工法別にすべて異なる下地や付属手間を細かく拾い、金物、必要人員、一日の予想出来高等を勘案してベストな結果を探してくれます。結果は従来どおり壁の中に10cmのGWを充填し、外貼りは板状の高性能な断熱材を一回で貼り、都合二回分の手間で30cm分の断熱を完了してしまう方法が選択されました。またこの構造を傾けたものが屋根、垂直なら壁といったように単純化し、従来のように壁は外貼り、屋根は吹き込みといった異なる断熱方法をとらずに共通化しています。小屋組みをプレカットでトラス化しクレーンで一気に建て方を終わらせるのもたいへん手間節約には有効でした。





単純化された、壁と屋根の構造、断熱材の性能を高めると部位を薄く高断熱化できる。これを分かりやすくいえば、室内を拡大化しつつ断熱性能を確保することが可能となる。結果、二階の天井を水平に貼る必要がなくなり屋根なりの吹き抜け空間としてのびのびとデザインすることが可能となる。



断熱材の止め付け方を工夫し、従来の外貼り断熱材のネックだったヒートブリッジ(継ぎ目に木材が出るためにそこが熱の逃げ場になりやすい。)を極力回避する構造としている。

下地の材を止めつける、内野沢棟梁。

9cm厚で3×6版(91cm×182cm)のフェノールフォームを外壁に止めつけて行く。これでグラスウール20cm分の断熱と同じ効果が期待できる。(断熱は壁の隙間に押し込む充填法よりも外貼り法の方が同じ性能の断熱材を用いても効果が高い。)

従来型の窓と壁の納まりが左側の写真。サッシが構造軸とも断熱軸ともずれ大きく外部側に追いやられているのが分かる。反面、南あいの里や菊水ではサッシの中心軸は構造軸、断熱軸と近接し構造的、断熱的なリスクを減らしている。南あいの里、菊水でサッシを担当するエンヴェロップによりサッシの位置や止水ライン(防水位置)が綿密に検討されている。

ご存知、北海道の偉大な発見であるパッシブ換気を説明するために作成したイラスト。
パッシブ換気とは、「正しく計画され、断熱され、気密化された建物においては、必要とされる換気は機械動力を必要としない。」というもの。隙間風や断熱不足による温度むら、空気や熱の移動を考慮しない間取りといったものから作りてが卒業すれば、煙突効果や対流といった自然の法則を用いて(機械動力に頼らないで)家全体を健全に保つために必要な換気量がモーターを用いずとも得られます。この話は過去に何度も書いていますが、ほんとうに不思議だと思いませんか?建築とはまさに科学でもあります。(*:建築基準法で定められている機械換気を否定するものではありません。実際の工事では、法的に必要な最低限の機械換気、たとえば簡易なパイプファン等は設置を求められますのでご注意ください。)

外気を導入する部分の屋外と室内の写真。外気を床下のヒーターでわずかに温めるだけで浮遊力を得た空気は各階に熱を配りながら室内の最も高いところを目指して上昇して行きます。ヒーターの容量を最適化すれば、換気と暖房を一体で行うことも可能となります。ドイツのパッシブハウスが床下空間を作らないのに対して、積極的に床下を断熱した室内空間として用い、余熱用のヒーターや給気管を設ける場として利用するところが特徴です。

今度は排気口の室内側と屋外側です。実はこの排気口も北海道の特産なのです。グッドマン換気口はいつも愛用することが多い製品です。左の写真の上部がグッドマン、下部がパイプファンです。

北国の家の穏やかな室内気候を完成させるためには、不要な外気の流入がしっかりと遮断されているか否か、実際に圧力をかけて現場毎ごとに確かめる必要があります。

すっかりおなじみのDr.タギ氏による気密測定はけして欠かせない工程です。

写真はドイツのパッシブハウスです。一見してずいぶんガラス面が多いと思いませんか?最近ドイツでは、建物のガラスの面積が増えつつあります。意外と知られていませんが、スウェーデンやノルウェーでは一年12ヶ月のうち、およそ2ヶ月が夜(一日中太陽が顔を出さない状態で極夜という。夏の白夜の反対。)です。こうした日が11月中旬から翌年の1月中旬まで続きます。したがいまして窓を大きくとることで冬場の太陽熱を取得しようという発想自体が難しくなります。むしろ夜の長い国として、短い夏の光を最大限楽しむために窓を大きくしようとするのです。北緯70°以北といえばもうほとんど北極圏ですが、主にメキシコ湾流の恩恵で冬場は本来の緯度からすればかなり暖かな気候といえます。それに対してドイツの場合は、北部以外は冬場の太陽熱を積極的に室内に入れ取得した熱を暖房の足しにすることが可能になります。(北ドイツでは期間は短いですが極夜があります。)さらに緯度が20°以上南に位置する北海道では、冬場でも豊富な太陽光が得られます。こんな理由で私の設計する建物には、冬場、低い軌道で移動する太陽から貴重な熱をいただくために、横長の窓が多く採用されるのです。(下の写真は銭函の家/2009)




ドイツのパッシブハウスの断面模型。断熱材は屋根45cm以上、壁30cm以上という分厚さ、壁の総厚は40cmを軽く越えます。こうした壁をドイツでは工場で断熱パネルとして一体生産するのが通常です。現場で大工さんが3回や4回に分けて断熱材を入れることは一般的とはいえません。先進国として大工の人件費はけして安くはありませんから、そういった工夫が必要になります。写真はドイツではポピュラーな木材から作るウッドファイバー。廃材や間伐材から作られるが、断熱性能はグラスウールと変わらない。私なら、小型プラントを被災地に設置して大量の廃材から断熱材を作りたいと思います。それを復興家屋に必ず使うことも合わせて提案することでしょう。復興する一軒一軒が、その壁や屋根の中に過去の街のDNAを宿している。けして悲劇を忘れない見えない誓いとして、今度は寒さや暑さに対する備えも真剣に行なってほしいと思います。もちろん出来上がった断熱材を販売することで経済も復興してほしいですし、仕事もごみ処分も両立しながら、もう一度立ち直ることができればよいと思います。

対する日本の生産現場は梁と柱の加工こそ土場やプレカット工場ですが、その他はほとんどすべて現地生産が普通です。つまり大工が一人で持ち運べて、工場よりも設備の劣る現場で作っても工場と出来上がりに差がでにくい方法を事前に、大工ともどもしっかりと練っておく必要があるのです。ものづくりの合理性を論じる際に、その国や地域の歴史や生産標準を無視した話をしても答えはなかなか見つかりません。ドイツや北欧が自らにふさわしい方法を長年掛けて見つけたように、私たちも自分たちのやり方を見つけるために日々努力しなくてはいけません。また建築というのは、たとえ先進国であっても地域的な基幹産業としての役割が強い場合がほとんどです。地元の生産者とのつながりや、伝統的な木材の寸法や止め付けに用いる方法や金物、技術者の技量や教育にいたるまで、地域と一体化した経済的な生態系のような構造になっているのが建築という産業の特徴なのです。山がなくなれば良い木が絶える、よい木がなければ大工が絶える、大工が絶えれば跡継ぎも絶える、直す人がいなければ建物が絶える、建物が絶えれば人が絶える、人が絶えれば街が絶えるといったように、鎖の輪のように脈々とつながっています。自分のやり方を見つけたドイツや北欧を尊敬しますが、学ぶべきはまずその不屈の精神であり、彼らが苦心の末見つけた方法を安易に真似るだけでは、本当の ものづくりとは言えないのです。

長らくほとんど棄てられていた白樺から作った美しい積層合板。(よく、廃棄物が原料なのだからほとんど製品代もただ同然という感覚の人がいるが、むしろ一見、ごみにしか見えないものをこんなに美しい製品に生まれ変わらせる技とはさぞや...と思える感性を大切にしてほしい。よいものを見つけるためには、ものを見る目を磨きながら、生産者を尊敬することだと思います。)

木口を美しく見せるデザインがもっと増えると楽しいと思う。写真は2010年グッドデザイン賞に輝いた、ペーパーウッド。(瀧澤ベニア株式会社)、キッチン製作:クリナップ㈱直需事業部、デザイン:山本亜耕。
注:写真のキッチンはクリナップ㈱のカタログモデルではありませんのでご注意ください。カタログ掲載の規格品ではなく、菊水の家のために専用にデザインしたものです。従いまして、デザイン上の版権は山本亜耕建築設計事務所に属します。クリナップ=カタログモデルとの思い込みから、直接ショールームに問い合わせる方が多いとのこと。それ自体はたいへん嬉しいことですが、常備品としての生産はしておりませんので予めご了承ください。製作等のお問い合わせは山本設計までお願いいたします。

さまざまな部分が、エコシラ合板で事前にパーツとして試作された。

さてお話もそろそろ最後に近づいてきました。二月、一ヶ月間の電気量はそれぞれの家でどのようになっているのでしょうか?北海道で使うエネルギーの大きな割合を占める暖房用熱源。3軒とも基本はオール電化ですが、その内容はかなり異なっています。西岡の家と南あいの里の家は深夜電力の一種であるホットタイムを用いた暖房用電気の料金メニューに時間帯別割引が特徴のドリーム8という料金メニューの二本立てで暖房とその他の動力をまかなうのが特徴。それに対してすべてヒートポンプを用いている菊水の家では専用料金メニューとして北電が開発したET-3(イータイムスリー)というメニューで料金が算出されます。まあ結果は一目両全。上右のグラフを見ても明らかなように同じ方式の西岡と南あいの里では一ヶ月間の電気使用量が西岡:2553kw、に対して南あいの里1615kwと約4割も少ないのです。もちろんこの他に南あいの里はペレットを焚くのですが、それを勘案しても、西岡の家は約32,000円/月(暖房+その他)となり南あいの里は、電:約21,000円+ペレット:約4,000円程度で25,000円/月(暖房+その他)となりました。さらに菊水は、ヒートポンプの運転を工夫した結果、一ヶ月で消費した電力量が1114kw。料金は13,000円/月(暖房+その他)となっています。みなさんにご理解いただきたいことは、断熱という一見地味でリーズナブルな工夫を見直すことで、たとえ従来型の燃費のあまり良くないと言われるシステムでもずいぶん電気の使用量を抑えられるということです。
日本人はすぐに最新型の○○...が大好きですが、総合成果物である建築においては、いくら部分だけが飛びぬけていても成果は出にくいということをぜひ踏まえていただくと、家選びを失敗しません。ちょうど車のように、エンジンばかりパワフルにしても、まっすぐ走らなかったり、止まれなかったリでかえって短所が目だってしまうのが家作りの難しさなのです。全体を見通す広い視野と目先に惑わされない設計思想を持つことが家をつくる上ではたいへん重要なのです。よく家は3軒つくらないと...などといわれるのはきっとそうしたことなのでしょう。

最後には、建設コストのお話で、私たちチーム南あいの里と、菊水の研究発表を終わります。きっとここまで読んでいただいた方は、よいのは分かるけれど値段もよすぎるんじゃ?と思われると思います。そこで南あいの里の家の予算書をもとに各工事に対する工事費を比率で表したグラフを示します。みなさんに分かりやすいように、この家を従来型【次世代省エネ仕様(Q値:1.6W/㎡k)】でつくった場合と比較できるように考えてあります。

たとえば、総工費2,000万円程度の家は従来型ならば、木工事が22%。440万円、一方300mm断熱仕様になると23%。460万円。+20万円UP、断熱工事費は従来型は1.5%。30万円に対し約5.5%。110万円。+80万円UP、サッシは従来型6.5%。130万円に対して8.5%。170万円。+40万円UP、逆に暖房工事費は従来型4.5%。90万円に対して2.7%。54万円となり-36万円DN。しめて20+80+40-36=104万円UP。(但し、換気はパッシブ換気、特殊な基礎構造等、ペレットストーブ等は含まないものとする。)

*:余談になりますが、従来型とはいえ、北海道の高断熱住宅の断熱工事費が総工費の1.5%程度という事実に驚く人も多いと思う。こうした各工事の予算配分は、別の見方をすれば価格の設計図に他なりません。時流や建て主の要望、もしもの時の安全性を取り入れたバランスのよいコストデザインが行われている必要があります。立案者をはじめ予算編成にたずさわる人間の見識が低ければ、国の予算と同様支持はなかなか得られません。予算書の中身が近代的か?やむを得ず膨らんだ部分はしっかり説明ができているか?、燃費のように回収すると考える項目のもの、安全性や歴史に耐えるデザインのように回収するという考え方自体がそぐわないもの、そうした事柄を分けて説明しているか?この分野のデザインが進むと建築自体がさらに親しみやすく面白いものになると思うのです。
最終的にチーム南あいの里の推計によれば、300mm断熱化する場合は、総工費2000万円程度の家ならば「追加断熱補強関係」に掛かる費用は総体の約5%程度となりました。よく断熱材に投資しても、回収のあてが付かないという議論を耳にしますが、平均的な西岡の家と比べても南あいの里の家で年間5万円程度、菊水の家ならば10万円程度安くなりますので、10年~20年で十分回収が可能です。(もちろん10~20年間、灯油価格が変わらないなどありえない話ですので実際にはもう少し早くなると思いますが。)

(*:このグラフの結果はチーム南あいの里、固有のものであり工務店や設計者が変われば、当然工事費の割合等が変化します。この割合を単純に当てはめようとしても、工務店や設計者の能力や最終価格を決定する商流等の違い、何よりも建築主の趣向により整合しませんので予めご注意ください。価格とは絶対的なものではなく、個人の趣向や敷地状況が大きく異なる住宅においては一目安とお考え下さい。むしろ誤解を恐れて今までコストに関する研究や臨床的な情報公開がなされてこなかったことがたいへん残念です。
コストを比較する際は、建物構造、杭工事の有無や高価なキッチン、ユニットバス等々の追加断熱補強以外の部分を除いて比較しないと、大きな誤解を招くことになりますので、建築の価格構成に不慣れな消費者の方々は特にご注意ください。)