2024年5月19日日曜日

暑さと断熱

  最近、リフォーム案件で小屋裏に出入りする機会が増えた。 5月は爽やかな北海道。だけど、小屋裏は例外なく暑い/笑・・ ふと昨年訪れた夏の岐阜を想い出した。白川郷の合掌造りの小屋裏。厚み60cm超の分厚い茅葺の屋根がまさに防水を兼ねた”超”屋根断熱となり、薄暗い室内を通り抜ける風が心地よかった。

外気温は日陰で約32℃、日向だと34℃、絶対湿度だって18g/kg以上もあった。その熱い外気が小屋裏に入ってくるのだから、心地よいというのも、よくよく思えば変な話。でも、どちらか選べと言われたら、圧倒的に白川郷の小屋裏を自分は選ぶ。

 理由は実に簡単で、茅葺の超断熱屋根は無断熱のトタン屋根のように焼け込まないから輻射熱を感じないし、34℃の外気だって風速があれば暑さに不慣れな北海道人の自分でもそこそこ過ごせるってことが分かったから。それに比べたら5月でさえトタンの焼け込みで屋根面の熱がジャンジャン入ってくる北海道の家の小屋裏は過酷でしかない・・長年の蓄積といえばそれまでだけど、断熱がいかに暑さをしのぐ上で有効な知恵だったのかを分厚い茅葺の合掌は今に伝えていると思う。

 こっから先は余談ですが・・白川郷の小屋裏でもう一つ最高だったもの・・それは北側の窓からの景色でした。


ミライの住宅の林さん、森さん昨年の貴重な学びに感謝します。


2024年5月1日水曜日

発寒の家Ⅳ 見学会を終えて

 

車が二台駐車出来て、雪かきが最小となるレイアウト。冬はカーポート内をトンネルのように使って玄関にアプローチします。夏場は手軽なBBQスペース。物置と駐輪場(除雪機置き場)も設けました。

当日は「発寒の家Ⅳ」の見学会にたくさんのご来場をいただきまして誠にありがとうございます。長く続いた新型コロナ感染症が明けて、やっと本格的な見学会ができるようになりました。引き続き、地域に相応しい住まいのデザインに取り組んでまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

夜間は一転、柔らかな光で街並みを作ります。

また今回の見学会を企画するにあたり、住まい手さまより特段のご厚意とご理解を頂きましたことを、この場をお借りして一言御礼申し上げます。見方を変えれば住まいの多くは個人宅。その一方で北国にこそ必要な間取りの知恵は現地でもまだ十分知られていません。

パッシブ換気の塔屋の壁面に取り付けられた太陽光パネル。すべてを電気で補い電気代の収支をゼロにすることを目指すのではなく、寒冷地に合った熱源の組み合わせで省エネと快適性の実現が設計のコンセプト。太陽光パネルは蓄電池と接続されており、停電時は自立が可能。冬ならペレットストーブや暖房ボイラーに電力を供給することも可能。

そうした事情を汲んで、見学をお許しいただけることはたいへん有意義であると同時に、設計者である自分のみならず大工さんや家づくりに関わる数多くの職人さん達の技を広く社会に示し、地域材の生産者さん、未来の建築を道内で学ぶ学生さんたちにとっても貴重な機会となります。その一方、そうした寛容な大らかさが縮小する社会においてこうした見学の場を地域の文化として育てたいと思っています。

南東向きに大きな開口部を設けたLDK。300mm断熱の家であれば冬場一日、6~8時間の暖房稼働で家中の室温は18℃以上を終日確保できる。但し、ずっと同じ室温環境の中に居続けるとポカポカとした刺激がほしくなる。そこで炎が見えて輻射(ポカポカ感)を改善するペレットストーブを用いて微調整(徐寒)する。

主な暖房設備でざっくり18℃を作り、高い外皮性能と日射を含む内部取得熱でそれをキープし、徐寒の微調整にはペレットストーブ等を用いる。300mm断熱の家も今回で42棟目となりましたが、暖房設備だけで微調整まで行おうとせずに、小さな設備を併用することでかなり不満の少ない暖房環境を実現できます。

シンプルに隠すことを意識した対面型キッチン。開放的なLDKとその真ん中に置かれた対面型キッチンは人気がありつつも充分な収納能力がないと成立しません。住まい手が片付け上手であることはもちろん、居間に対して解放されたキッチンセットは家具の王様でもあります。

こうして見ると実にシンプルですが・・・

実はもの凄く大容量の収納となっています。

手元を居間側から隠し収納力を上げるレイアウトです。

料理本やこまごまとしたものの収納はこんな風に90°ひねった棚を用意しました。写真のように小さなスツールなんかを入れておくのもいいと思います。キッチンに北側の安定した光を導き入れるのにも一役買っています。

こんな感じで収納物が居間側から見え難いようにしています。

間取りの中央に位置しつつも暗くならぬように工夫した階段です。壁をなめるように光が入り階段を奥まで明るくします。曇りガラスを効果的に使うのも大切なポイントです。

冬には自転車を仕舞ったり、スキーやスノボを整備したり、肩の雪も払える暖かな土間玄関です。右側は二畳にも及ぶ大容量の靴箱とコート掛け。玄関廻りの収納不足は北国アルアル・・しっかり対策しています。

最近の北海道は夏がどんどん厳しくなっています。そこでパッシブ換気の塔屋の中にエアコンを装備しています。

3種換気とパッシブ換気の排気口。ナイトパージ(夜間外気冷房)用のドレキップ窓も設けました。窓からは屋上に出ることも可能です。

徐寒目的のペレットストーブ。大きなガラスは炎を美しく見せてくれます。その一方で森林資源由来のエネルギーである薪やペレットは極力少なく使えば済むように計画します。すべてを薪ストーブでという人がいますが、それだと貴重な森林資源はすぐに枯渇してしまいます。より少なく再生可能な範囲で使うからこそ、長く使えるのが木質バイオマスエネルギー。薪だからエコなのではなく計画的に使うからこそ環境的なのが森林資源です。

パッシブ換気の床下給気部分。空気は見えませんから吹き流しを付けて、一目で給気が確認できるようにしておきます。夏場、窓開け換気が難しい期間(エアコンを使用する盛夏時等)のみ3種換気を用います。

こんな風に床下に照明も付けていつでも点検可能なようにしておきます。床下は給排水管等の設備置き場でもあります。どんなに耐久性の高い設備でも建築ほど長くはもちませんから交換時に入り易いよう、普段から点検環境と動線を確保しておきます。

今後は益々、第三者による評価が問われます。「発寒の家Ⅳ」は札幌版次世代住宅基準の最高位であるプラチナグレードです。

こちらは上記の根拠となる省エネ性を示したBELSの評価証です。



今日はタチアナ エバ マリーの歌で・・