2011年4月4日月曜日

20110304セミナー御礼

東日本大震災の影響で報告が遅れてしまいましたが、3月4日のセミナーは悪天候で高速道路やJRが運休する中、たくさんの方々にご来場いただきまして心より感謝申し上げます。またご講演をいただきました札幌市環境局さま、札幌版の新省エネ基準策定に座長として参加されている絵内先生、ご後援をいただいた関係各位のみなさま、ほんとうにありがとうございます。
 家づくりを通して、クライアントや各分野のスペシャリストが協働することで市民にとって有益な情報公開の場にならないか?特にわが国は衣、食、住の中で圧倒的に住をはじめとする暮らしの分野が弱く、それに対する市民の気付きや本質的価値の理解が不十分なのではないか?そんな状況に答えるためには、市民と、ものづくりの現場を結び、設計者自らが臨場感を交えて解説を行ったり、時には生中継をしたり、見学会や講習会を企画してはどうだろうか?設計者の威厳をことさら強調したり、手柄を独り占めにしたりしないで、たくさんの専門家と実際の住まいづくりを通して、これから家を直したり建てたりする方々の一助になり得ないか?また地域のマスコミのみなさんには、一緒に作り手と建設中からコラボレーションすることで、もっとリアルな分かりやすさと同時に、記事のクオリティーも高めてほしい。「北海道の住宅関連の新聞雑誌はレベルが高いね。」と他県からも引き合いが来るようになってほしい。生産者や施工者のみなさんには、共通の目標のために団結して知恵を出す機会を生かし、皆が知らない地域の技や特色、よい仕事をアピールしてほしい。そしてなによりこのブログをお読みの市民の皆さんが、北海道の特産は海の幸と野菜ばかりではなく、建築もそうだよね!と少しでも感じてくれたらこの試みは大成功だと思います。
  
それでは、当日会場にお越し願えなかった方々のためにセミナーの内容をダイジェストで報告いたします。

1:現状とコンセプト
北海道の人口は大きく減少傾向にあり、今後もさらに加速する見通しである。主な理由は、出生率の低下と、今後、消費を下支えする30才以下の人口流失が著しい。


一方、温室効果ガスの推移を見ると、過去10年間、大きく人口が減少しているにも関わらず、横ばいの傾向が続き減少は見られていない。

人口の減少、特に都市の周辺からの人口流失は、廃校や町村の合併等を加速させ、余剰のインフラが再利用のあてもなく、野ざらしのまま放置される風景を生み出している。反面、新興住宅街の周辺地域では学校をはじめとするインフラが不足し、地域間格差が拡大の一途をたどっている。

主に、高齢化社会を前提に安全性を目指して推進されてきた家庭エネルギーの電化により、家庭内から燃焼器具は減ったが、発電需要が増え、結果としては温室効果ガスは増大した。業種別、企業別に見ても圧倒的に電力事業者の割合が高く、家庭のエネルギーを今後どう選ぶのか?といったことは、そのまま国家の温室効果ガス削減の可能性と不可分な関係といえる。当然ながら将来を見据えた国民の見識が今問われている。

特に北海道の場合は、民生分野(家庭)から排出されるCO2が非常に多く、全国平均の約1.6倍となっている。原因は半年にも及ぶ冬季の暖房によるものだが、もはや単なる地域性として片付けることが難しいところまで来ているのが実情である。またこうした統計の結果から、残念ながら、1999年より実施が始まった「次世代省エネ基準」が少なくとも北海道においては温室効果ガス削減の点からは不十分なものであったことは否めない。今後、北海道において温室効果ガスの削減を目指すならば、効果的な地域基準の策定と普及に加えて、建築主である市民の協力と理解が欠かせない。

札幌の平均的な戸建てにおけるエネルギー消費量に注目してみると、暖房が全体の50%を超え、給湯も合わせると73%となっている。これを見ても分かるように、今後はこの分野の建物側の設計に大幅な努力が求められる。(なぜなら、このデーターは旧式な設備を有する住宅をもとにしたものではなく、あたらしい住宅も含めたものである。)もはや暖房や給湯機器の高性能化に頼っていては燃費の抜本的改善は難しい現状にあることを、消費者が理解しないと、問題の解決はいっそう困難になる。

北海道は道民一人当たり1ヘクタールの森林を所有していると言われるように、広大な森林資源を有している。しかし主に価格を支配的な要因とする供給、生産、流通体質は地域産業の荒廃を招き、自給率を大きく上回る潜在的生産量を現に有しながら地域資源を活用できていない。グラフを見ても分かるようにトドマツなどは潜在的生産量の1/10程度しか活用されておらず、残りもこのままだと使うこと自体難しくなってしまう。その結果、外来材に対する依存度が増し、石油と同じように生産国の都合や為替に過度に影響されやすい体質を一層進めるばかりか、目の前に立派な山がありながら市場に木材がないといったような、誠に??な社会状況を生み出すことにもなりかねない。

この資料は、高齢者の浴室での死亡率をまとめたものである。色が濃ければ濃いほど死亡率も高くなる。特筆すべきは、北海道や青森県が最も死亡率の低い色グループに入ることである。文中にもあるが、各室の温度管理が行き渡っていることがその理由なのだそうだ。いまひとつは建物における暖房や断熱、換気や気密といった基礎的な事柄を北国だけの特殊条件であるとして、しっかり取り組んでこなかった作り手側の責任も大きい。室内の温熱環境を健康的に保つための暖房や断熱は雪国でのみ必要なローカルチックな設計ノウハウどころか、むしろ北国以外の地域にこそ必要なものであることが統計から読み取れる。高齢化社会は国全体の問題であるはずなのに、住まう地域によって高齢者の生存率が著しく違うというのはいかがなものだろうか?さらに、その原因が部屋ごとの温度差と指摘されているにも関わらずそれを改善できないとしたら、それこそ作り手側の怠慢と取られても仕方がないと思う。余談にはなるが、今回の大震災で、命からがら九死に一生を得て避難所にたどり着いても、室内の寒さが原因で亡くなる方の多いことも、建築に携わる人間ならけして忘れてはならない。想定外の震災といった表現にばかり目を奪われることなく、仮に想定内だったにせよ、停電や燃料不足は十分に予測できるはずである。揺れや津波から人々を守っても寒さから人を守れなければ建物本来の役割を果たしているとはいい難い。この経験を糧に大きく考え方がシフトすることを切に願う。それが亡くなった方々に、作り手として報いることではないかと思う。けして電気や石油のせいにしてしまわぬように、これから建築に携わる方々にお願いしたい。電気や石油がない時代から建物が命を守ることに変わりはないのだから。


たとえば、なにか新たなムーブメントを起こそうとするとき、現在の常識や一般的な思考といったものから一旦離れてみることも大切である。たとえば環境と経済と言った場合、ほとんどの人が図の矢印のように相矛盾するもの。といった思考回路を頭の中に描いてしまうとしたら、その後の話がまったく先に進まない。人の思い込み又は既成概念とは得てしてそういったものである。「環境的にすると非経済的、経済的だと環境的ではない。」といった二者択一の平面的思考ではそもそも解決できないところに今の社会の難しさがあることにむしろ気付くべきである。

ほんとうは、経済的な価値と環境的な価値は矛盾しないのではないか?要はkmとkgのように呼び方は似ていても片や長さ(二次元)。片や重さ(三次元)といったような異なる尺度なのでは?と考えてみる。そうした上で目指すべき価値を空中に浮いた直方体のように考えてみてはいかがだろう?反対側から光を当ててそれぞれの面に落とす影の面積が価値の大きさと考えると、上の図のように環境性と経済性は矛盾ではなくなりはしないだろうか?浮いている直方体の太さをのり巻きのようにどんどん太くしてゆけば、経済性と環境性も両立することが可能なはずである。たとえばこれからの住宅のあり方をこんな風にイメージして地域の力や材料を使いながら世界水準のものづくりを目指すとしたらわくわくしないだろうか?こうした可能性を市民の家作りの選択肢としてもっとたくさんの建築家や家づくりに携わる人が発信し、当の市民も巻き込んで北海道の家づくりがさらに楽しくなったらよいと思う。

次回はいよいよ各部のデザインや性能に関してお伝えします。どうぞお楽しみに!

     「南あいの里の家」、「菊水の家」プロジェクトマネージャー 山本亜耕


2011年4月2日土曜日

幸せ

東日本大震災の様子をチェックしながら、事務所ではスケッチに集中する毎日。
未曾有の大災害をきっかけに、さまざまな価値観を見直す契機にしています。あらためて私たちの暮らしとはエネルギーと一体なものであること。付加価値よりも本質的価値が遥かに大切なこと。暴走する原子炉は誰にも止められないこと。どんなにインターネットや情報社会が発達しても、噂(風評)にすら勝てないこと。一瞬で数万という命がいとも簡単に失われること。生きていることはむしろ特別であるということ。どれ程幸せか気付いていなかったこと。自然を想定することなどできないということ。反対に、困難が子供を大人にすること。こんなにたくさんのボランティアがいること。想像を絶する状況でパニックに陥らない強さ。助け合いを厭わない人たち。勇気や献身、博愛や責任感等々、震災前までは、しらけて聞こえたことばが現実になった。
尊い犠牲が教えてくれた気付きを大切にしたい。建築家として仕事を通して不器用かもしれないが一つ一つ答えを探したいと思います。

クライアントのみなさん。一緒によい家をつくりましょう!本日も事務所にて。AKO


2011年3月31日木曜日

今日は旭川へ

本日は旭川へ出張です。いつもは車ですが今日はJRにしました。おかげで以前から見たいと思っていたJR新旭川駅を見ることができました。

L特急の新車両のシルバーとホームの上屋を支える鉄骨の亜鉛メッキのグレーの地肌がマッチして渋くてクールでした。新車両の窓にはなんとペアガラスが使われていました。室内の照明も電球色で落ち着いた感じです。ずいぶん雰囲気がEUっぽくなってきました。

上屋を支える鉄骨の柱は4本に枝分かれするデザイン。設計は内藤廣

室内は電球色照明に地場産のタモ材がふんだんに使われています。

高架駅のためにホームは高いところにあります。

限定:10000人のプロジェクト、旭川駅にあなたの名前を刻みませんか?によるネームプレート。

駅舎はとってもお洒落だったけど、残念だったのは街だった。旭川の街づくりには正直、疑問を感じてしまう。どんどん人口が減ってゆくのに市街地を拡大し、あたらしい庁舎やインフラを中心街から離れた旧国鉄跡地に分散させる北彩都計画、駅は立派でも眼前の街は寂れつつある。箱物中心、社会が素早く大きく変わろうとしているのについて行けない、重厚長大な意思決定システム。メイン通りの買い物公園沿いの百貨店には空きテナントが目立ち、四条からは一段と閑散とする中心街。人口減少の中、賑わいを集約しなくてはいけないのに、実際はその反対。まさに一度始まったら、赤字国債が増えようが、必要性がなくなろうがただ惰性で実行されるダム建設と変わらない。公共工事に大きく依存し、建設、土木大国だった旭川。かくいう私もそんな時代にこの街で勤め人時代を過ごした。下りのエスカレーターが止まり、大きなフロアーでたった二軒のブティックがかろうじて店を開いている百貨店。それ以外のテナントスペースは電気が消され布が下げられている。道の両側に立ち並んでいた立派なホテルが跡形もなく壊され後ろの月決め駐車場が丸見えになった昭和通り。最新の人口推計では2035年には30万人を大きく割り込むとの事。しかし箱物の建設は続く。
嬉しかったのは15年ぶりに訪れた食堂で食べたカレー。その名も「自由軒」。カレーはルーから手作りで配合は秘密。苦味と甘みが絡み合う味はまったく変わることなし。ほんとうに美味しかった。マスターに、「15年ぶりです。」って言ったら「もうそんなになるう?」だって。涙が出そうになります。帰り際「大丈夫!街が変わっても自由軒は変わらないから。」マスターほんと最高です。

オクノ(旭川を代表するファッションビル、DCブランド等のテナントが入る)でやっていた、北海道東海大学は暮らしデザイン学科の展示会。なにをかくそう我が母校です。とっても気合の入った家具やカテラリーの数々。写真は白樺のお皿、素朴な風合いが好印象です。

普段着で使うことを大切にしている点がとっても素敵だった。構えたデザインなんてつまらない。毎日さりげなくそばにあることがほんとうにデザイン的ってこと。そんな大人なメッセージを感じました。北欧の影響が強くデザインの市民化に取り組む伝統はしっかり継承されています。

実物は驚きの加工技術が光る。もちろん直線的ながらバランスのよいプロポーションにはたいへんな苦労が隠されていることが伺える。大物になってくださいね。この椅子ほしくなりました。 
お洒落なスツール、簡素であることはけしてロークオリティーではないという証。

ユーモラスなかわいさと多種の端材から作り上げた集成材のシャープさが同居する作品。


 閑散とはしていたも、作品のクオリティーは高いものがありました。そんな大学もあと4年で旭川からなくなります。とても残念です。 
最後はもう一軒想い出の店、中華料理の「敦煌」へ。今から27年前、初めて旭川に来た日に食べたのがこの餃子定食。まったく当時から変わることなく、お皿さえ当時のままに、ああ感激!帰り際ご主人にお礼を言うと、「27年か~、今年でうちも32年経ちました。なんとなく見覚えがあるから昔のお客さんかな?って思ってね。」こっちも思わず泣きそうになりました。みなさんもぜひ買い物公園5条へ、このほかにも塩ホルモンの炭屋本店等々、珠玉の名店がありますよ~。もちろん「自由軒」もね。ぜひ行ってみて下さい。実は今年、旭川で久しぶりに仕事が決まりました。クライアントさんに心よりお礼申し上げます。久しぶりに旭川の素晴らしい職人たちと仕事ができることをほんとうに楽しみにしています。いただいたチャンスを精一杯生かして、簡素で素敵な家をつくりたいと思います。旭川万歳!


2011年3月18日金曜日

安堵

先ほど、メールにて連絡があり、ご案内した工務店及びホスト役の担当者さんも全員無事である旨の確認が取れました。今は安堵の気持ちで一杯です。よくぞご無事で、これもきっと神様の思し召しでしょう。ほんとうによかった。安心しました。
 しかし一方で報道を見ると、生き残ったとはいえ被災地はさまざまな困難に喘いでいます。避難先の施設が寒すぎて、せっかく生き延びた方々が亡くなる光景は、設計者としてほんとうに辛いものです。九死に一生を得てこれから復興のために生きる機会を得ながら、ほんの少しの電気や灯油、本来必要な断熱設計の知識が不十分なために失われる尊い人命を思うと残念で残念でたまりません。化石燃料がなくなるのはもともと分かっていたはずなのに、震災で電気がストップしたら暮らしが成り立たないことも分かっていたはずなのに...中でも印象に残ったのは「寒いのは燃料がないから仕方がない。辛いのは自分たちだけではないのだから。」といって亡くなられる方々の言葉です。
被災者の方々が避難されている学校や病院は十分な採光面積が法律で定められています。今回の津波の影響を受けなかった3階以上の階になればなるほど太陽の光は下階よりもずっと強くなります。光が強ければ強いほど現場に必要とされている熱も豊富になります。さらに多数の被災者の方々は大人一人100W、子供でも50W以上の昼夜を問わない安定的熱源です。つまりはせっかく生き残っても、避難施設の断熱水準が低すぎるがために二次被害が拡大してしまうのです。エネルギーに頼ることなく生存可能な室温を得ることは、地震の揺れや津波の力に耐えるのと同じくらい大切な設計上の要件です。災いは夏場の季節のよいときに集中するとは限りません。最初の揺れに耐えた後は停電や断水が当然なのですから、いかに自立的にエネルギーに頼らずに暮らせるかといった観点に立って建築すべてをもう一度見直す必要があるのではないでしょうか。
 誤解がないように付け加えますが、私はけして震災の準備のために断熱の必要性を説いているわけではありません。必要以上の動力設備は燃費の悪さや費用対効果等々のさまざまな副作用を伴いますが、断熱は平時にもほとんどそうした害を与えません。むしろ少量のエネルギーで冷暖房の効きを安定させ、夏の暑さや冬の寒さから身を守ってくれます。もっとも控えめで信頼性が高く安価で簡単な方法にどうか今一度目を向けてほしいものです。仮にこうした不安に備えて動力設備で備えようとすればするほど、100年に一度あるかないか分からない事のために多額の設備投資が必要になり。いざ肝心な時には故障して動かないといったまさに現在の悪循環に陥るのです。雪国にとって冬は清らかな白の世界と思われるでしょうが、同時にそれは死の世界でもあります。そんな厳しい時期を毎年半年間も抱えながら春に命の息吹を感じるのは、冬季間、雪が断熱材として小さな命を凍死の危機から守るからに他なりません。すなわち断熱の根源的な役割とは暑さや寒さを穏やかにして、「命を生かすこと。」そのものなのです。ですから肝心なときにその中で寒くて生きられない建物はどんなに立派に見えても本来の役割を果たしているとは言いがたいのです。
被災地で苦労されているみなさん。中には大切な方を失って途方に暮れている方も多いと存じます。心よりお見舞い申し上げるとともにご冥福をお祈りいたします。しかし生き残ったのならばこそ尊い犠牲が意味するものも同時に思い出してください。亡くなられた方々の願いをどうぞ無にしないでください。街は一時失われても、街を愛する人が絶えねばまたつくることができます。みなさんが必死になればもっとよい街にすることもできるはずです。大工たちに連絡は取れますか?各工種の職人たちはどうでしょう?資材は少しでも手に入りますか?どうぞ早く街に槌の音を響かせてください。職人たちにもう一度仕事を与え、ものをつくる誇りを取り戻してください。私はいつでも応援いたします。一日も早い復興を心よりお祈りいたします。

2011年3月12日土曜日

恐ろしきは偶然なり!どうかご無事で

三月十日、いつもお世話になっている住宅雑誌の編集長さんと一緒に、岩手の工務店のみなさんをお迎えしていた。昨年、一昨年に完成した住宅を案内しながら北海道の住宅の今を岩手のみなさんに紹介することが目的のイベントです。みなさんお若く、聞けば工務店の二代目、三代目とのこと。自分の代はよりよいものづくりをしたい。そのためにたくさん勉強をしたい。そんな情熱に感心するとともに、北海道のノウハウやそれらが生まれる土壌に関する話題で大いに盛り上がった一日でした。光栄にも宴席まで頂戴し、「明日の朝6:30の飛行機で帰路に着くので」とお話ししてお開き。
その後は報道で大惨事を知った。
 みなさんご無事でしょうか?きっとたいへんな不自由をされていることでしょう、電話も通じず安否も分かりません。しかしどうぞ希望を捨てないで、各国の救助隊がぞくぞくと終結しています。もう少しでそちらにも届くでしょう。沿岸部の方はすぐに高いところへ逃げてください。津波は繰り返し襲来します。家にものを取りに近づかないでください。半壊状態の建物の中に入らないでください。家はまた作れます。今はどうぞ生き残ることを優先させてください。

 

2011年2月15日火曜日

3/4市民セミナーのご案内

本日は、市民セミナーのご案内です。今までブログを読んでいただいた方なら既にご存知と思いますが、北海道の将来に対して住宅の果たすべき役割はたいへん大きいといえるでしょう。人口が急激に減少する中、暮らし部門のCO2排出量が全国平均の1.6倍にも及ぶ北海道。冬場の暖房エネルギーの問題を先送りし続けてきたつけが今来ています。排出権取引の拡大や環境税の導入が本格的に叫ばれる中、ついに札幌市も独自の省エネ基準の策定に乗り出しました。環境的で持続可能な暮らしのために必要な住宅とは?産業と環境の両立は可能か?大胆に暖房エネルギーを削減する暮らしとは?昨年よりブログでおなじみのチーム南あいの里と菊水のメンバーを交え、市民の方、建築関係者、学識者、行政、みんなでこれからの自分の役割を考える集まりにしたいと思っています。ぜひたくさんのみなさんのご来場をお待ちしています。

「ここまでできる!! 北海道の今の家」市民セミナー

『北海道型高性能住宅の方向性
       ~札幌市の取り組み、北方型住宅ECOから読み解く』

■開催日時:3月4日(金)18:00〜20:00

■開催会場:札幌エルプラザ(大ホール)
 札幌市北区北8条西3丁目(JR札幌駅北口より徒歩5分)

■参加対象:市民の方、建築業界関係者

■参加費 :無料

■開催内容:□第一部 「増え続ける北海道のCO2と未来」
               基調講演:「札幌版省エネ住宅基準」について
               検討委員会 繪内正道座長

        □第二部  「行政と民間の取り組み」
               事 例①:札幌・エネルギーecoプロジェクトについて
               札幌市環境局環境都市推進部

               事 例②:北方型住宅ECO
                       「南あいの里プロジェクトの実情」

                ・検証①「目標50万円台」は実現したか?
                ・検証② 地域材活用に光は見えたか?
                ・検証③ 300㎜相当断熱のプロトタイプ化は?
                ・検証④ 超高性能にマッチする暖房機器の選定は?
                ・検証⑤「プロジェクト型」のメリットは?

               事 例③:「菊水プロジェクト」から見えた
                                環境配慮住宅のあり方

■登壇者 :○山本亜耕 氏(山本亜耕建築設計事務所 代表)

        ○サデギアン・モハマッド・タギ 氏
                (タギ建築環境コンサルタント 代表取締役)

        ○武田司 氏(丸稲武田建設 代表取締役)

        ○繪内正道 氏(北海道大学 名誉教授)

      コーディネーター:野島宏利 氏(北海道住宅通信社 代表取締役社長)

■主 催 :北海道環境住宅普及委員会 (ローカルにつくる高性能住宅プロジェクト)

■問い合わせ先(受付窓口):北海道住宅通信社 TEL 011-864-8580






2011年2月14日月曜日

屋根

北海道の屋根は味気ない。
無落雪の平たい陸屋根ばかりだから。
確かに最近は多いかも。しかし30年前はむしろ積極的に屋根を傾けて雪を落とそうとした時代もあった。陸屋根自体が珍しかったこの時代。果たしてなぜ勾配屋根は絶滅の道をたどったのか?聞くも涙、その影には氷柱(つらら)との壮絶な戦いがありました。

写真は有名な小樽運河沿いの軟石倉庫。現在は飲食テナントが多数入っている。当然ながら調理と客が発する熱はこんな風に外部に氷柱として現れる。

写真は南側、日当たりの良い南側よりも北側のほうが圧倒的に氷柱は大きく育ちやすい。

北海道で古い建物が残りづらいのは、寒くて住めない場合が圧倒的に多い。けして古い家の暖房器具が小さく性能も劣るからではない。暖房熱のほとんどは室内を暖めずに屋根を暖めてしまい屋根に積もった雪をゆっくり溶かす。それは氷柱となりトタンとの間で氷の板となり、屋根の上で丈夫な雪の厚い板が出来上がる。氷のそりに乗った雪の板は、昼間の暖気でゆっくり屋根の上を滑る。丈夫なものだから軒先からはねだしても簡単には折れない。ゆっくり巻き込むように折れ曲がりながら二階の窓を簡単に押し破る。果たして屋根を傾けて雨水のごとく粉雪をさらさらと落とすことなど実は至難の業であることが判明する。当初はトタンの材質や勾配の緩さが原因と考えられたが実はまったく見当はずれだった。屋根の勾配を45度以上(オリンピックのスキーコースでも最大斜度は36度程度)にしても、室内の熱が屋根にさえ伝わればまったく雪が落ちないことを目にしてみな唖然とする。人によっては室内の暖房熱が屋根の雪を溶かし雪を落とすことがむしろ建物にとって良いと信じる人も多く。あろうことか屋根を断熱することは当初大いに疑問視された。今でこそ北海道でも勾配屋根の無落雪が可能であるが、その影には断熱の研究と知識が欠かせない。

氷堤と巨大に成長した氷柱。断熱を行わなければ45度以上の屋根勾配でもまったく雪は落ちない。屋根も簡単に傷んでしまう。安心していると暖気で緩んだ拍子に数百キロの氷塊とともに屋根の雪が滑り落ちて壁に深刻なダメージを及ぼす。

2011年2月6日日曜日

菊水の家 温度測定

本日は、菊水の家に温度測定に来ました。各部に自動記録式の温湿度計を置き、北海道の厳寒期に当たる二月の各室の温度と湿度を調べようというものです。なんだか小学校の自由研究のようでもありますが(笑)、こうすることで自らの設計が熱的にうまくいっているのかを検証することが大切なのです。「え~っ!それじゃ山本さん上手くいくかどうかも分からなかったの~??」なんて驚く声も聞こえてきそうですが(笑)...いえいえけして分からないのに設計なんてしません。誤解を解くために言いますが、本来、建物はその敷地の条件によって室内の環境が大きく影響を受けます。日当たりが良い悪い≒冬暖かい寒い等々は北海道の人間ならばおなじみの事柄ですよね。日当たりのよい敷地で当然のようににできたことが、北向き敷地だと支障をきたす。風の穏やかな旭川なら許される作り方も強風地域の岩内なら注意が必要。こんな風にさまざまな設計上の優先順位が絡み合って、その地域ごとに多様な工夫が求められるのです。同じ札幌市内でも風の強い南あいの里地区と周囲に既にたくさんの建物が立ち並び比較的風が穏やかな菊水地区では雪の積もり方や雪庇のでき方が大きく違います。反面、私たちが住まいに求める快適性や健康性は方位や風速に左右されるようでは困ってしまいます。そこで実証検分を通して設計の勘所を絶えず鋭敏に保つ必要があるのです。こんな理由で私が行うことは科学で言うところの基礎研究、「未知なる危険な液体同士を混ぜてみよう。」といった趣旨ではなくむしろ「改良の余地を探す」ことが目的なのです。今後は自然エネルギーのように不安定な熱源や使いすぎると再生不可能になりやすいもの、また従来の電気やガス、灯油を使うにしても以前では考えられなかったほど低燃費が求められます。これは一見するとハイテク技術が主役のように感じられますが、そうした技術を進歩させるためには、牽引力として消費者の高い環境意識が必要です。建築も似ていて、建物全体に大きな影響を及ぼす設計者の意識が新しくないと、大きなエンジンばかりが目立つ設計からなかなか卒業することができません。実に簡単なことなのですが、北海道の建築を進化させるためには消費者の意識に加えて設計者の意識改革も同時に進めなければならないのです。

外部につけた温度計。直射日光を避けて取り付けられている。

腕のように飛び出た部分が温湿度センサー。

熱交換換気装置のある一階にも設置。

2011年2月2日水曜日

現地調査

毎年のことですがこの時期、計画のためにあちこちの敷地通いが日課になります。設計をする上で大切なことに、「敷地をよく知る」ということがあります。当然ながらよい住宅を建てるためには敷地の特性を理解しなくてはなりません。でもどうして何回も通うの??と思う方もきっと中には多いでしょう。その理由は、その敷地の季節ごとの顔を知りたい(知る必要がある)からです。今年は、昨年暮れからの少ない雪に一旦は安心していたところに、想定外の大雪となりました。そこで雪もおさまりからりと晴れた今日の調査の目的は、雪の量、敷地への太陽光の差し方、風向き、雪庇の向きと大きさ、敷地中を歩き回ってどこを居間にしたら気持ちが良いか?、良い風景と悪い風景、一階が居間か?それとも二階か?等々を考えたり確認したりしに行こうと思います。

こんな時のために新年初売りで手に入れた、スノーシューが本領発揮。気持ちよく敷地内を歩き回れます。そうそうぜひみなさんにお勧めしたいのが冬の運動。とはいってもおなじみのスノーボードやゲレンデスキーではなく、このスノーシューを使った冬の野山のトレッキングです。クロスカントリースキーもよいのですが、スノーシューは扱いが簡単なので老若男女だれでも冬の美しい自然や風景を満喫できます。価格もリーズナブルなものだと数千円で手に入るのでほんとうに手軽に始められます。埋まらずどこにでも行けるので楽しくなってついつい30分も歩き回れば全身汗だく。ほんと爽快ですよ~(笑)。


室内に取り込みたい風景。これからずっと向き合ってゆきたい景色がどこにあるのか?そんなことを考えながら、居間の向きや形をあれこれ想像します。

スノーシューを履くと降りたての深雪でもこの通り。靴裏にはアイゼンが装備されていて上りや下りもカンジキより圧倒的に楽ちんです。

本日の現地調査のアシスタントは妻。彼女が履くのはよりヘビーな深雪用。一回り大きなタイプです。なんだかスキーを担いでニセコの山を登りたくなりますね~。(笑)


本日二回目の現場の様子。14:00頃はこんな感じで山の後ろに日が沈みます。

2011年2月1日火曜日

北海道の家は暖かいのだが...

2007年度における北海道の温室効果ガスの排出実態は、13トン/人となり、全国平均に比べ20%以上多い結果となっている。

温室効果ガスの中で最大のものはCO2だが、2003年までは増加傾向にあり、それ以降は横ばいの状態である。

CO2の排出元として主なものは、上から順に産業部門、民生(家庭)部門、運輸部門、民生(業務)部門となっていてこれら4部門で総排出量の90%を占めている。

各部門別のCO2排出量を全国平均と構成比により比較すると、北海道におけるCO2排出元の第二位を占める民生(家庭)部門が大きく、およそ全国の1.6倍のCO2を排出している。

さてみなさんいかがでしたでしょうか?前回は、家全体が暖かく各室の温度差の穏やかな北海道の住宅は、脳疾患による突然死が全国平均を大きく下回る事実を取り上げました。本日はそうした一見暖かく安全な住宅が実は大きな暖房エネルギーに依存していることを述べたいと思います。私たちの身近な省エネの基準としては1999年にできた「次世代省エネ基準」がありますが、残念ながら統計を見る限り、目に見える成果をあげるにはいたらなかったようです。確かに安全であることは最優先されるべき事柄ですが、反面ほとんどの住宅が室内環境は近代的でも燃費に関しては一世代以上前か、オール電化への過度の依存のためにむしろ悪くなっているのが実情です。

2011年1月27日木曜日

北海道の寒さは本当に恐ろしいのか?

北海道への移住をためらう理由のひとつに雪と寒さがあると思う。高齢者にとっては雪かきをはじめとする作業は負担だろうし、なにより寒さは健康の敵であるからだ。本日はこんな統計を見つけたのでぜひお付き合い願いたい。
東京ガス都市生活研究所による調査によれば、日本の浴室は先進国はおろか世界的に見ても非常に危険なところらしい。反面、世界的に見れば死因として浴室での溺死はかなり珍しいケースのようだ。果たしてそれはなぜだろう?

この調査も同じく東京ガス都市生活研究所のものだが、入浴中の死亡事故は交通事故の1.5倍以上のリスクのようだ。しかしまた運転と同じように居眠りが原因で溺れるのだろうか?

実は、北海道の人間にとっては不思議なことだが、日本における浴室暖房は各国に比べて非常に遅れている。日本の浴室は床が洗い場の水掛りとなるために、脱衣所と分けて計画するのが普通であることから、浴室内に暖房機を置くことは難しい。こうした既成概念が働くので浴室を暖房しないことに違和感を覚える人が少ないのだろう。しかし隣接する脱衣所には北海道の場合ならばほとんどの場合何らかの暖房をしている。当然ながら脱衣所とドア一枚隔てた浴室も暖房空間なのである。床が水掛りのため浴室内に暖房機を置けないことは他の地域と同様ながら、浴室が暖房空間であるところが大きく異なるのである。

このデーターも数字を見ると北海道の人間ならば驚くと思う。それは浴室内が10℃という状態が珍しいからだろう。気温が10℃の室内で裸になり、42℃のお湯につかることなど現在の北海道の暮らしにおいてはずいぶん少なくなっている。血圧の変化に注目していただきたい。寒いということがどれほど健康にとってストレスになるか実感できると思う。

最後の統計は少々古いものだが、たいへん興味深いと思う。人口10万人中脳卒中で死亡する人の割合を地方ごとに比較したものである。石油ストーブが早くから普及し部屋ごとの温度差が少ない北海道の死亡率が東京とほとんど変わらないのが分かる。反面、北関東においては部屋ごとの採暖が主流であり、部屋ごとの温度差が大きい。

最新のデーターが手に入ったので合わせて掲載しておきます。
全国の47都道府県別の比較データーです。


さていかがでしたでしょうか?健康住宅などというと最近は天然素材や化学物質以外の材料でできた建物をまずイメージしがちですよね~。しかし家を暖房(全室をくまなく暖めること、部分的なものは暖房ではなく採暖と区別します。)すること。その暖房が間違いなく機能するように断熱することは、素材にこだわるのと同じくらい健康な暮らしには欠かせないことなのです。根源的に必要な要素(必須設計項目)といってよいと思います。またこうした事柄が十分理解されず、冒頭の統計のように先進国ながら国全体としては死亡率の高い住宅が多いことがたいへん残念です。