2011年4月2日土曜日

幸せ

東日本大震災の様子をチェックしながら、事務所ではスケッチに集中する毎日。
未曾有の大災害をきっかけに、さまざまな価値観を見直す契機にしています。あらためて私たちの暮らしとはエネルギーと一体なものであること。付加価値よりも本質的価値が遥かに大切なこと。暴走する原子炉は誰にも止められないこと。どんなにインターネットや情報社会が発達しても、噂(風評)にすら勝てないこと。一瞬で数万という命がいとも簡単に失われること。生きていることはむしろ特別であるということ。どれ程幸せか気付いていなかったこと。自然を想定することなどできないということ。反対に、困難が子供を大人にすること。こんなにたくさんのボランティアがいること。想像を絶する状況でパニックに陥らない強さ。助け合いを厭わない人たち。勇気や献身、博愛や責任感等々、震災前までは、しらけて聞こえたことばが現実になった。
尊い犠牲が教えてくれた気付きを大切にしたい。建築家として仕事を通して不器用かもしれないが一つ一つ答えを探したいと思います。

クライアントのみなさん。一緒によい家をつくりましょう!本日も事務所にて。AKO


2011年3月31日木曜日

今日は旭川へ

本日は旭川へ出張です。いつもは車ですが今日はJRにしました。おかげで以前から見たいと思っていたJR新旭川駅を見ることができました。

L特急の新車両のシルバーとホームの上屋を支える鉄骨の亜鉛メッキのグレーの地肌がマッチして渋くてクールでした。新車両の窓にはなんとペアガラスが使われていました。室内の照明も電球色で落ち着いた感じです。ずいぶん雰囲気がEUっぽくなってきました。

上屋を支える鉄骨の柱は4本に枝分かれするデザイン。設計は内藤廣

室内は電球色照明に地場産のタモ材がふんだんに使われています。

高架駅のためにホームは高いところにあります。

限定:10000人のプロジェクト、旭川駅にあなたの名前を刻みませんか?によるネームプレート。

駅舎はとってもお洒落だったけど、残念だったのは街だった。旭川の街づくりには正直、疑問を感じてしまう。どんどん人口が減ってゆくのに市街地を拡大し、あたらしい庁舎やインフラを中心街から離れた旧国鉄跡地に分散させる北彩都計画、駅は立派でも眼前の街は寂れつつある。箱物中心、社会が素早く大きく変わろうとしているのについて行けない、重厚長大な意思決定システム。メイン通りの買い物公園沿いの百貨店には空きテナントが目立ち、四条からは一段と閑散とする中心街。人口減少の中、賑わいを集約しなくてはいけないのに、実際はその反対。まさに一度始まったら、赤字国債が増えようが、必要性がなくなろうがただ惰性で実行されるダム建設と変わらない。公共工事に大きく依存し、建設、土木大国だった旭川。かくいう私もそんな時代にこの街で勤め人時代を過ごした。下りのエスカレーターが止まり、大きなフロアーでたった二軒のブティックがかろうじて店を開いている百貨店。それ以外のテナントスペースは電気が消され布が下げられている。道の両側に立ち並んでいた立派なホテルが跡形もなく壊され後ろの月決め駐車場が丸見えになった昭和通り。最新の人口推計では2035年には30万人を大きく割り込むとの事。しかし箱物の建設は続く。
嬉しかったのは15年ぶりに訪れた食堂で食べたカレー。その名も「自由軒」。カレーはルーから手作りで配合は秘密。苦味と甘みが絡み合う味はまったく変わることなし。ほんとうに美味しかった。マスターに、「15年ぶりです。」って言ったら「もうそんなになるう?」だって。涙が出そうになります。帰り際「大丈夫!街が変わっても自由軒は変わらないから。」マスターほんと最高です。

オクノ(旭川を代表するファッションビル、DCブランド等のテナントが入る)でやっていた、北海道東海大学は暮らしデザイン学科の展示会。なにをかくそう我が母校です。とっても気合の入った家具やカテラリーの数々。写真は白樺のお皿、素朴な風合いが好印象です。

普段着で使うことを大切にしている点がとっても素敵だった。構えたデザインなんてつまらない。毎日さりげなくそばにあることがほんとうにデザイン的ってこと。そんな大人なメッセージを感じました。北欧の影響が強くデザインの市民化に取り組む伝統はしっかり継承されています。

実物は驚きの加工技術が光る。もちろん直線的ながらバランスのよいプロポーションにはたいへんな苦労が隠されていることが伺える。大物になってくださいね。この椅子ほしくなりました。 
お洒落なスツール、簡素であることはけしてロークオリティーではないという証。

ユーモラスなかわいさと多種の端材から作り上げた集成材のシャープさが同居する作品。


 閑散とはしていたも、作品のクオリティーは高いものがありました。そんな大学もあと4年で旭川からなくなります。とても残念です。 
最後はもう一軒想い出の店、中華料理の「敦煌」へ。今から27年前、初めて旭川に来た日に食べたのがこの餃子定食。まったく当時から変わることなく、お皿さえ当時のままに、ああ感激!帰り際ご主人にお礼を言うと、「27年か~、今年でうちも32年経ちました。なんとなく見覚えがあるから昔のお客さんかな?って思ってね。」こっちも思わず泣きそうになりました。みなさんもぜひ買い物公園5条へ、このほかにも塩ホルモンの炭屋本店等々、珠玉の名店がありますよ~。もちろん「自由軒」もね。ぜひ行ってみて下さい。実は今年、旭川で久しぶりに仕事が決まりました。クライアントさんに心よりお礼申し上げます。久しぶりに旭川の素晴らしい職人たちと仕事ができることをほんとうに楽しみにしています。いただいたチャンスを精一杯生かして、簡素で素敵な家をつくりたいと思います。旭川万歳!


2011年3月18日金曜日

安堵

先ほど、メールにて連絡があり、ご案内した工務店及びホスト役の担当者さんも全員無事である旨の確認が取れました。今は安堵の気持ちで一杯です。よくぞご無事で、これもきっと神様の思し召しでしょう。ほんとうによかった。安心しました。
 しかし一方で報道を見ると、生き残ったとはいえ被災地はさまざまな困難に喘いでいます。避難先の施設が寒すぎて、せっかく生き延びた方々が亡くなる光景は、設計者としてほんとうに辛いものです。九死に一生を得てこれから復興のために生きる機会を得ながら、ほんの少しの電気や灯油、本来必要な断熱設計の知識が不十分なために失われる尊い人命を思うと残念で残念でたまりません。化石燃料がなくなるのはもともと分かっていたはずなのに、震災で電気がストップしたら暮らしが成り立たないことも分かっていたはずなのに...中でも印象に残ったのは「寒いのは燃料がないから仕方がない。辛いのは自分たちだけではないのだから。」といって亡くなられる方々の言葉です。
被災者の方々が避難されている学校や病院は十分な採光面積が法律で定められています。今回の津波の影響を受けなかった3階以上の階になればなるほど太陽の光は下階よりもずっと強くなります。光が強ければ強いほど現場に必要とされている熱も豊富になります。さらに多数の被災者の方々は大人一人100W、子供でも50W以上の昼夜を問わない安定的熱源です。つまりはせっかく生き残っても、避難施設の断熱水準が低すぎるがために二次被害が拡大してしまうのです。エネルギーに頼ることなく生存可能な室温を得ることは、地震の揺れや津波の力に耐えるのと同じくらい大切な設計上の要件です。災いは夏場の季節のよいときに集中するとは限りません。最初の揺れに耐えた後は停電や断水が当然なのですから、いかに自立的にエネルギーに頼らずに暮らせるかといった観点に立って建築すべてをもう一度見直す必要があるのではないでしょうか。
 誤解がないように付け加えますが、私はけして震災の準備のために断熱の必要性を説いているわけではありません。必要以上の動力設備は燃費の悪さや費用対効果等々のさまざまな副作用を伴いますが、断熱は平時にもほとんどそうした害を与えません。むしろ少量のエネルギーで冷暖房の効きを安定させ、夏の暑さや冬の寒さから身を守ってくれます。もっとも控えめで信頼性が高く安価で簡単な方法にどうか今一度目を向けてほしいものです。仮にこうした不安に備えて動力設備で備えようとすればするほど、100年に一度あるかないか分からない事のために多額の設備投資が必要になり。いざ肝心な時には故障して動かないといったまさに現在の悪循環に陥るのです。雪国にとって冬は清らかな白の世界と思われるでしょうが、同時にそれは死の世界でもあります。そんな厳しい時期を毎年半年間も抱えながら春に命の息吹を感じるのは、冬季間、雪が断熱材として小さな命を凍死の危機から守るからに他なりません。すなわち断熱の根源的な役割とは暑さや寒さを穏やかにして、「命を生かすこと。」そのものなのです。ですから肝心なときにその中で寒くて生きられない建物はどんなに立派に見えても本来の役割を果たしているとは言いがたいのです。
被災地で苦労されているみなさん。中には大切な方を失って途方に暮れている方も多いと存じます。心よりお見舞い申し上げるとともにご冥福をお祈りいたします。しかし生き残ったのならばこそ尊い犠牲が意味するものも同時に思い出してください。亡くなられた方々の願いをどうぞ無にしないでください。街は一時失われても、街を愛する人が絶えねばまたつくることができます。みなさんが必死になればもっとよい街にすることもできるはずです。大工たちに連絡は取れますか?各工種の職人たちはどうでしょう?資材は少しでも手に入りますか?どうぞ早く街に槌の音を響かせてください。職人たちにもう一度仕事を与え、ものをつくる誇りを取り戻してください。私はいつでも応援いたします。一日も早い復興を心よりお祈りいたします。

2011年3月12日土曜日

恐ろしきは偶然なり!どうかご無事で

三月十日、いつもお世話になっている住宅雑誌の編集長さんと一緒に、岩手の工務店のみなさんをお迎えしていた。昨年、一昨年に完成した住宅を案内しながら北海道の住宅の今を岩手のみなさんに紹介することが目的のイベントです。みなさんお若く、聞けば工務店の二代目、三代目とのこと。自分の代はよりよいものづくりをしたい。そのためにたくさん勉強をしたい。そんな情熱に感心するとともに、北海道のノウハウやそれらが生まれる土壌に関する話題で大いに盛り上がった一日でした。光栄にも宴席まで頂戴し、「明日の朝6:30の飛行機で帰路に着くので」とお話ししてお開き。
その後は報道で大惨事を知った。
 みなさんご無事でしょうか?きっとたいへんな不自由をされていることでしょう、電話も通じず安否も分かりません。しかしどうぞ希望を捨てないで、各国の救助隊がぞくぞくと終結しています。もう少しでそちらにも届くでしょう。沿岸部の方はすぐに高いところへ逃げてください。津波は繰り返し襲来します。家にものを取りに近づかないでください。半壊状態の建物の中に入らないでください。家はまた作れます。今はどうぞ生き残ることを優先させてください。

 

2011年2月15日火曜日

3/4市民セミナーのご案内

本日は、市民セミナーのご案内です。今までブログを読んでいただいた方なら既にご存知と思いますが、北海道の将来に対して住宅の果たすべき役割はたいへん大きいといえるでしょう。人口が急激に減少する中、暮らし部門のCO2排出量が全国平均の1.6倍にも及ぶ北海道。冬場の暖房エネルギーの問題を先送りし続けてきたつけが今来ています。排出権取引の拡大や環境税の導入が本格的に叫ばれる中、ついに札幌市も独自の省エネ基準の策定に乗り出しました。環境的で持続可能な暮らしのために必要な住宅とは?産業と環境の両立は可能か?大胆に暖房エネルギーを削減する暮らしとは?昨年よりブログでおなじみのチーム南あいの里と菊水のメンバーを交え、市民の方、建築関係者、学識者、行政、みんなでこれからの自分の役割を考える集まりにしたいと思っています。ぜひたくさんのみなさんのご来場をお待ちしています。

「ここまでできる!! 北海道の今の家」市民セミナー

『北海道型高性能住宅の方向性
       ~札幌市の取り組み、北方型住宅ECOから読み解く』

■開催日時:3月4日(金)18:00〜20:00

■開催会場:札幌エルプラザ(大ホール)
 札幌市北区北8条西3丁目(JR札幌駅北口より徒歩5分)

■参加対象:市民の方、建築業界関係者

■参加費 :無料

■開催内容:□第一部 「増え続ける北海道のCO2と未来」
               基調講演:「札幌版省エネ住宅基準」について
               検討委員会 繪内正道座長

        □第二部  「行政と民間の取り組み」
               事 例①:札幌・エネルギーecoプロジェクトについて
               札幌市環境局環境都市推進部

               事 例②:北方型住宅ECO
                       「南あいの里プロジェクトの実情」

                ・検証①「目標50万円台」は実現したか?
                ・検証② 地域材活用に光は見えたか?
                ・検証③ 300㎜相当断熱のプロトタイプ化は?
                ・検証④ 超高性能にマッチする暖房機器の選定は?
                ・検証⑤「プロジェクト型」のメリットは?

               事 例③:「菊水プロジェクト」から見えた
                                環境配慮住宅のあり方

■登壇者 :○山本亜耕 氏(山本亜耕建築設計事務所 代表)

        ○サデギアン・モハマッド・タギ 氏
                (タギ建築環境コンサルタント 代表取締役)

        ○武田司 氏(丸稲武田建設 代表取締役)

        ○繪内正道 氏(北海道大学 名誉教授)

      コーディネーター:野島宏利 氏(北海道住宅通信社 代表取締役社長)

■主 催 :北海道環境住宅普及委員会 (ローカルにつくる高性能住宅プロジェクト)

■問い合わせ先(受付窓口):北海道住宅通信社 TEL 011-864-8580






2011年2月14日月曜日

屋根

北海道の屋根は味気ない。
無落雪の平たい陸屋根ばかりだから。
確かに最近は多いかも。しかし30年前はむしろ積極的に屋根を傾けて雪を落とそうとした時代もあった。陸屋根自体が珍しかったこの時代。果たしてなぜ勾配屋根は絶滅の道をたどったのか?聞くも涙、その影には氷柱(つらら)との壮絶な戦いがありました。

写真は有名な小樽運河沿いの軟石倉庫。現在は飲食テナントが多数入っている。当然ながら調理と客が発する熱はこんな風に外部に氷柱として現れる。

写真は南側、日当たりの良い南側よりも北側のほうが圧倒的に氷柱は大きく育ちやすい。

北海道で古い建物が残りづらいのは、寒くて住めない場合が圧倒的に多い。けして古い家の暖房器具が小さく性能も劣るからではない。暖房熱のほとんどは室内を暖めずに屋根を暖めてしまい屋根に積もった雪をゆっくり溶かす。それは氷柱となりトタンとの間で氷の板となり、屋根の上で丈夫な雪の厚い板が出来上がる。氷のそりに乗った雪の板は、昼間の暖気でゆっくり屋根の上を滑る。丈夫なものだから軒先からはねだしても簡単には折れない。ゆっくり巻き込むように折れ曲がりながら二階の窓を簡単に押し破る。果たして屋根を傾けて雨水のごとく粉雪をさらさらと落とすことなど実は至難の業であることが判明する。当初はトタンの材質や勾配の緩さが原因と考えられたが実はまったく見当はずれだった。屋根の勾配を45度以上(オリンピックのスキーコースでも最大斜度は36度程度)にしても、室内の熱が屋根にさえ伝わればまったく雪が落ちないことを目にしてみな唖然とする。人によっては室内の暖房熱が屋根の雪を溶かし雪を落とすことがむしろ建物にとって良いと信じる人も多く。あろうことか屋根を断熱することは当初大いに疑問視された。今でこそ北海道でも勾配屋根の無落雪が可能であるが、その影には断熱の研究と知識が欠かせない。

氷堤と巨大に成長した氷柱。断熱を行わなければ45度以上の屋根勾配でもまったく雪は落ちない。屋根も簡単に傷んでしまう。安心していると暖気で緩んだ拍子に数百キロの氷塊とともに屋根の雪が滑り落ちて壁に深刻なダメージを及ぼす。

2011年2月6日日曜日

菊水の家 温度測定

本日は、菊水の家に温度測定に来ました。各部に自動記録式の温湿度計を置き、北海道の厳寒期に当たる二月の各室の温度と湿度を調べようというものです。なんだか小学校の自由研究のようでもありますが(笑)、こうすることで自らの設計が熱的にうまくいっているのかを検証することが大切なのです。「え~っ!それじゃ山本さん上手くいくかどうかも分からなかったの~??」なんて驚く声も聞こえてきそうですが(笑)...いえいえけして分からないのに設計なんてしません。誤解を解くために言いますが、本来、建物はその敷地の条件によって室内の環境が大きく影響を受けます。日当たりが良い悪い≒冬暖かい寒い等々は北海道の人間ならばおなじみの事柄ですよね。日当たりのよい敷地で当然のようににできたことが、北向き敷地だと支障をきたす。風の穏やかな旭川なら許される作り方も強風地域の岩内なら注意が必要。こんな風にさまざまな設計上の優先順位が絡み合って、その地域ごとに多様な工夫が求められるのです。同じ札幌市内でも風の強い南あいの里地区と周囲に既にたくさんの建物が立ち並び比較的風が穏やかな菊水地区では雪の積もり方や雪庇のでき方が大きく違います。反面、私たちが住まいに求める快適性や健康性は方位や風速に左右されるようでは困ってしまいます。そこで実証検分を通して設計の勘所を絶えず鋭敏に保つ必要があるのです。こんな理由で私が行うことは科学で言うところの基礎研究、「未知なる危険な液体同士を混ぜてみよう。」といった趣旨ではなくむしろ「改良の余地を探す」ことが目的なのです。今後は自然エネルギーのように不安定な熱源や使いすぎると再生不可能になりやすいもの、また従来の電気やガス、灯油を使うにしても以前では考えられなかったほど低燃費が求められます。これは一見するとハイテク技術が主役のように感じられますが、そうした技術を進歩させるためには、牽引力として消費者の高い環境意識が必要です。建築も似ていて、建物全体に大きな影響を及ぼす設計者の意識が新しくないと、大きなエンジンばかりが目立つ設計からなかなか卒業することができません。実に簡単なことなのですが、北海道の建築を進化させるためには消費者の意識に加えて設計者の意識改革も同時に進めなければならないのです。

外部につけた温度計。直射日光を避けて取り付けられている。

腕のように飛び出た部分が温湿度センサー。

熱交換換気装置のある一階にも設置。

2011年2月2日水曜日

現地調査

毎年のことですがこの時期、計画のためにあちこちの敷地通いが日課になります。設計をする上で大切なことに、「敷地をよく知る」ということがあります。当然ながらよい住宅を建てるためには敷地の特性を理解しなくてはなりません。でもどうして何回も通うの??と思う方もきっと中には多いでしょう。その理由は、その敷地の季節ごとの顔を知りたい(知る必要がある)からです。今年は、昨年暮れからの少ない雪に一旦は安心していたところに、想定外の大雪となりました。そこで雪もおさまりからりと晴れた今日の調査の目的は、雪の量、敷地への太陽光の差し方、風向き、雪庇の向きと大きさ、敷地中を歩き回ってどこを居間にしたら気持ちが良いか?、良い風景と悪い風景、一階が居間か?それとも二階か?等々を考えたり確認したりしに行こうと思います。

こんな時のために新年初売りで手に入れた、スノーシューが本領発揮。気持ちよく敷地内を歩き回れます。そうそうぜひみなさんにお勧めしたいのが冬の運動。とはいってもおなじみのスノーボードやゲレンデスキーではなく、このスノーシューを使った冬の野山のトレッキングです。クロスカントリースキーもよいのですが、スノーシューは扱いが簡単なので老若男女だれでも冬の美しい自然や風景を満喫できます。価格もリーズナブルなものだと数千円で手に入るのでほんとうに手軽に始められます。埋まらずどこにでも行けるので楽しくなってついつい30分も歩き回れば全身汗だく。ほんと爽快ですよ~(笑)。


室内に取り込みたい風景。これからずっと向き合ってゆきたい景色がどこにあるのか?そんなことを考えながら、居間の向きや形をあれこれ想像します。

スノーシューを履くと降りたての深雪でもこの通り。靴裏にはアイゼンが装備されていて上りや下りもカンジキより圧倒的に楽ちんです。

本日の現地調査のアシスタントは妻。彼女が履くのはよりヘビーな深雪用。一回り大きなタイプです。なんだかスキーを担いでニセコの山を登りたくなりますね~。(笑)


本日二回目の現場の様子。14:00頃はこんな感じで山の後ろに日が沈みます。

2011年2月1日火曜日

北海道の家は暖かいのだが...

2007年度における北海道の温室効果ガスの排出実態は、13トン/人となり、全国平均に比べ20%以上多い結果となっている。

温室効果ガスの中で最大のものはCO2だが、2003年までは増加傾向にあり、それ以降は横ばいの状態である。

CO2の排出元として主なものは、上から順に産業部門、民生(家庭)部門、運輸部門、民生(業務)部門となっていてこれら4部門で総排出量の90%を占めている。

各部門別のCO2排出量を全国平均と構成比により比較すると、北海道におけるCO2排出元の第二位を占める民生(家庭)部門が大きく、およそ全国の1.6倍のCO2を排出している。

さてみなさんいかがでしたでしょうか?前回は、家全体が暖かく各室の温度差の穏やかな北海道の住宅は、脳疾患による突然死が全国平均を大きく下回る事実を取り上げました。本日はそうした一見暖かく安全な住宅が実は大きな暖房エネルギーに依存していることを述べたいと思います。私たちの身近な省エネの基準としては1999年にできた「次世代省エネ基準」がありますが、残念ながら統計を見る限り、目に見える成果をあげるにはいたらなかったようです。確かに安全であることは最優先されるべき事柄ですが、反面ほとんどの住宅が室内環境は近代的でも燃費に関しては一世代以上前か、オール電化への過度の依存のためにむしろ悪くなっているのが実情です。

2011年1月27日木曜日

北海道の寒さは本当に恐ろしいのか?

北海道への移住をためらう理由のひとつに雪と寒さがあると思う。高齢者にとっては雪かきをはじめとする作業は負担だろうし、なにより寒さは健康の敵であるからだ。本日はこんな統計を見つけたのでぜひお付き合い願いたい。
東京ガス都市生活研究所による調査によれば、日本の浴室は先進国はおろか世界的に見ても非常に危険なところらしい。反面、世界的に見れば死因として浴室での溺死はかなり珍しいケースのようだ。果たしてそれはなぜだろう?

この調査も同じく東京ガス都市生活研究所のものだが、入浴中の死亡事故は交通事故の1.5倍以上のリスクのようだ。しかしまた運転と同じように居眠りが原因で溺れるのだろうか?

実は、北海道の人間にとっては不思議なことだが、日本における浴室暖房は各国に比べて非常に遅れている。日本の浴室は床が洗い場の水掛りとなるために、脱衣所と分けて計画するのが普通であることから、浴室内に暖房機を置くことは難しい。こうした既成概念が働くので浴室を暖房しないことに違和感を覚える人が少ないのだろう。しかし隣接する脱衣所には北海道の場合ならばほとんどの場合何らかの暖房をしている。当然ながら脱衣所とドア一枚隔てた浴室も暖房空間なのである。床が水掛りのため浴室内に暖房機を置けないことは他の地域と同様ながら、浴室が暖房空間であるところが大きく異なるのである。

このデーターも数字を見ると北海道の人間ならば驚くと思う。それは浴室内が10℃という状態が珍しいからだろう。気温が10℃の室内で裸になり、42℃のお湯につかることなど現在の北海道の暮らしにおいてはずいぶん少なくなっている。血圧の変化に注目していただきたい。寒いということがどれほど健康にとってストレスになるか実感できると思う。

最後の統計は少々古いものだが、たいへん興味深いと思う。人口10万人中脳卒中で死亡する人の割合を地方ごとに比較したものである。石油ストーブが早くから普及し部屋ごとの温度差が少ない北海道の死亡率が東京とほとんど変わらないのが分かる。反面、北関東においては部屋ごとの採暖が主流であり、部屋ごとの温度差が大きい。

最新のデーターが手に入ったので合わせて掲載しておきます。
全国の47都道府県別の比較データーです。


さていかがでしたでしょうか?健康住宅などというと最近は天然素材や化学物質以外の材料でできた建物をまずイメージしがちですよね~。しかし家を暖房(全室をくまなく暖めること、部分的なものは暖房ではなく採暖と区別します。)すること。その暖房が間違いなく機能するように断熱することは、素材にこだわるのと同じくらい健康な暮らしには欠かせないことなのです。根源的に必要な要素(必須設計項目)といってよいと思います。またこうした事柄が十分理解されず、冒頭の統計のように先進国ながら国全体としては死亡率の高い住宅が多いことがたいへん残念です。

2011年1月24日月曜日

北海道の今

住民基本台帳による平成22年12月末現在の北海道の人口は5,518,088人である。


総合政策部地域行政局統計課企画情報グループ

HP:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tuk

今日は統計のお話し。社会を捉える上で役に立つし、イメージで物事を片付けてしまいがちな悪い癖を矯正するのにも効果的。今、北海道でなにが起こっているのかをちゃんと知りたいなあ~と思いました。

北海道の人口は平成9年(1997年)をピークに減少に転じている。特徴的なことは平成9年以降社会増減(本人の意思又は自然増減以外の理由による増減)が自然増減(出生及び死亡による増減)を一気に逆転し、現在に至るまでその傾向が続いていることである。また平成15年以降はこれに加え、自然増減もマイナスに転じ、死亡が出生を上回る自然減と社会減がセットで北海道の人口減少の主要因となっている。年齢別転入超過数に注目すると平成12年の調べでは20~29才までの層が道外に著しく流失し次いで10~19才層、30~39才層の順になっている。

要は、最近約10年間で、北海道の人口は約20万人弱減少し今後もその傾向が続くと思われる。その中で特徴的なのは本人の意思により北海道を離れる人の増加が著しいことである。さらに平成15年以降は死亡する老人の数の方が生まれる子供の数を追い越し、高齢化が進行しながら全体人口規模が縮小する状況に突入している。中でも10歳から29歳、40歳から49歳といった今後社会の消費を牽引する世代と消費の中心世代が道外に多数流失している中で消費が低迷し物が売れない状況が慢性化している点である。


全国ブロック別による将来的な人口推計比較によれば北海道の人口減少はもっとも急激かつ大きく、同様に高齢化率はもっとも高い。反面、人口減少がもっとも少ないのは沖縄であり高齢化率も最も低い。
同じ地方の一員として、所得も低く公共投資に対する依存度も低くはない沖縄だが北海道との決定的な違いは、労働生産人口の内、消費に積極的な世代である20代から40代の人口が多いこと。当然ながら出生率も高く、人口減少及び高齢化共に穏やかになる。

人口の中で生産の中心となる生産年齢人口が減少しつつも、各地域は必死に頑張り一人当たりの実質総生産を押し上げている。



民間、公共ともに用地取得や設備投資に回す支出が減少傾向にある。実質的な総支出に占めるこれら固定資本形成の割合も他ブロックに比べて低く、攻より守りに入る傾向が見て取れる。全国ブロック別一人当たり投資(平成14年度)を見ると北海道の経済体質がよく分かる。すなわち公的投資(主に公共工事)依存であり民間による投資は全国ブロック中最も低くなっている。地域経済の帳尻を公共投資によりなんとか合わせている苦しい状況が垣間見える。

さてみなさんはこんな北海道をどう思うだろうか?
私らの若い時分は「若者なら東京に行け!地方にくすぶっていてもなんにもないぞ!」だった。しかしつい最近まで、いや今でも「これからは地方の時代!」ではなかったか?そんな意味でこうした統計はある意味ショッキングですらある。しかし自覚症状のない病人ほど治療に困るものはない。たとえば北海道の抱える問題もそうした事柄を乗り越える時期に来ているのではないだろうか?統計によれば、今後、住宅を必要とする若い世代は全国一早く消滅する地域が北海道であるし、消費に対して消極的な高齢層がこれまた全国一の速度で増えるのもそうである。この事実に慄いて道外に脱出を図れば前述の統計結果を自ら肯定する結果となり.....(笑)

そんな意味で統計に向き合う勇気が今必要なのではないでしょうか?
ちなみに読売新聞の調査によるセカンドライフの移住先人気ランキングの第一位は沖縄県、第二位は北海道である。




2011年1月20日木曜日

今年取り組むこと、取り組みたいこと

みなさんお元気ですか?風邪など引いていませんか?
雪がないない...などと言っているうちに、どっさり降りましたね~。(笑)
やっぱり北海道の冬、これから一段と厳しい季節に突入です。

私はといえば、今年も相変わらず1月4日から仕事を始め、昨年から懸案だった仕事用のコンピュータの入れ替えや、22年度の長期優良住宅の実績報告作成、持ち越しの計画案件の見直しや訂正等々...おかげさまで楽しく忙しく過ごしておりました。

新しくなったのはよいが、使い勝手が分からず古いパソコンの電源を切ることがなかなかできない。(笑)前のソフトでは簡単にできていたのに??とばかりに悪戦苦闘。時流とはいえこのパソコン依存体質いかがなものか??

さて今年は情報の発信に力を入れてゆこうと思います。
北海道の建築のよさを伝えることはもちろん。

昨年完成した、「南あいの里の家」、「菊水の家」双方の燃費調査や住み心地のレポート。
市民のみなさんを巻き込んだ建築のイベントや内覧会の企画。
畑作りや庭を取り入れた北海道スタイルの暮らしの提案。
北国の平屋に挑戦。
リノベーションの可能性とは?
高い費用対効果を実現するコストデザインへの更なる取り組み。
新たな生産者の発掘と紹介。

地域に生きる建築家として、いま建築が社会にできることを分かりやすく発信したいと思います。
そしてまた今年、あらたなものづくりの機会を与えてくださいましたクライアントのみなさまと
精一杯、設計を楽しみたいと思います。(でも...どうぞお手柔らかに~/笑)

                                        山本亜耕

2011年1月6日木曜日

新年明けましておめでとうございます。

みなさん新年明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

札幌は雪の少ない穏やかな元日でした。自宅と実家を行き来しながら今年のプロジェクトのコンセプトをあれこれ考えたり、読書をしたりしました。今読んでいるのは「デフレの正体/藻谷浩介 です。なぜ不景気は続くのか?どうしてものが売れないのか?高名な経済学者ですら難儀するこの疑問に作者は、今ならネットで簡単に手に入る統計資料を用いて次々に答えてゆきます。まさに目からウロコの連続。みなさん!バブルが崩壊した90年代前半に実は就業者数が増えていたって知っていました?統計を用いる=過去から学ぶこと、何事も丁寧にデーターを示して説明することの大切さをあらためて考えさせられました。学生さんから社長さんまで、特に建築を志す若い建築家の方々にもぜひ読んでほしい一冊です。ちょっとだけ社会が分かりますよ~。



2010年12月28日火曜日

今年も一年ありがとうございます

今年は昨年に引き続きたいへん有意義な年でした。「南あいの里の家」と「菊水の家」は生涯忘れない仕事になりました。建築業界が深刻な不況の底で喘いでいる中で、北海道のものづくりの力を示せたのではないかと思います。このブログをお読みの方々はもうお分かりのように北海道の厳しい自然は生産者や作り手を育てるばかりか違いの分かる素晴らしいクライアントを育ててくれます。北海道のクライアントなら皆「使いやすく、美しいデザインで暖かく性能の良い家」を望みます。最近ではこれに加えて「環境的で地球と地域にやさしく高いコストパフォーマンス」が加わります。このような当然の思いは、冒頭の厳しい自然を母に生まれるものではないでしょうか?私もさらに勉強に励みクライアントのみなさまにご満足いただけますように来年も頑張りたいと思います。

この場をお借りして今年お世話になりましたクライアントのみなさまに心より御礼申し上げます。
また「チーム菊水」及び「南あいの里」のみなさん、来年もまた素晴らしい仕事ができますようにお祈りしています。そして2011年度のご契約を頂戴したクライアントのみなさま、これからよろしくお願いいたします。どうぞお手柔らかに(笑)、またブログを最後まで読んでいただいた読者のみなさま、応援のメッセージをいただいたみなさま、報道各社さま、STVさま、小学校の皆さま、PTAのみなさま、みなさまのおかげで今年一年を終えることができます。ほんとうにありがとうございます。

それではみなさまよいお年を!                              山本亜耕

2010年12月27日月曜日

熱交換換気装置

寒冷地の住宅設計にとって熱の逃げ道を当初から予想して計画に生かす意識は大切です。開口部:1/3、躯体:1/3、換気:1/3、学生時代の授業で建物の熱の逃げ道と題して北海道の建築系の学生なら習ったおぼえがあるでしょう。現在の北海道の市場においては、断熱材と開口部に関しては、かなり良いものが手に入るようになってきましたが、機械換気装置に関してはなかなかこれといったものが少ないのが現状です。こうした機械ものになると、5%市場の北海道は圧倒的に不利な立場になってしまいます。菊水の家に用いた熱交換換気装置は生産国では特に高性能なものではありませんが、ここ数日の厳しい寒さの中でも力を発揮してくれつつあります。くれつつなどと言うのは、この手の熱交換機は状態をモニターしながらある程度調整を加えないと本来の性能が出難いからです。各階の排気のバランスや機器内流速を最適に調整することで本来の性能が発揮されます。本格的な調整は年明けにして現在はボルトオンの状態のレポートです。



熱交換換気装置の本体。白く太く断熱した管が熱回収後の室内の空気を外部に捨てる排気管。その隣が各階からの使用済み暖房空気を回収する管です。

朝一は冷え込み外気温は約-5℃、この冷気に室内の使用済み空気の熱だけを移して新鮮な冷気から暖気に変えて室内に供給するのが熱交換換気の目的です。

室内に供給される新鮮空気は約13℃。年明けの調整が楽しみです。